
どうして「産後クライシス」は起こるのか
本来なら、子どもが産まれるのは夫婦にとって大きな喜びのはずです。自分の血を分けた子どもが可愛くないという親はいません。
では、なぜ赤ちゃんがいると夫婦の絆が壊れ産後クライシスに陥ってしまうのでしょうか?
それは、父親と母親では、赤ちゃんの世話をする負担や意識がまったく違うからです。そもそも、子を出産できるのは女性である妻だけ。そして母乳が出るのも母親だけであり、出産直後の女性は精神的にも肉体的にも休むことを許されない状況になります。
対して、父親となった夫のほうは、極端に言えば何も変化はありません。陣痛の痛みも知らず、数時間おきに母乳をあげなければならない大変さも、体感することはありません。さらに言えば、赤ちゃんという小さな存在をどう扱って良いのかも、出産する本能を持つ母親の理解には遠く及ばないのが現実です。
その差が、お互いの「(大変さを)わかってくれない」というすれ違いにつながります。疲れて口をきくのもしんどいと感じる妻に対して、夫はどう接して良いのかわかりません。赤ちゃんのお世話をしたくても、何をどうすれば正しいのかを知りません。
赤ちゃんの世話に追われて余裕のない妻には、そんな夫を受け入れることが難しくなります。「どうしてもっと助けてくれないんだろう」という不満だけが募ってストレスが溜まり、最終的には夫に対して嫌悪感を持つまでに至るのですね。
これが産後クライシスの大きな要因です。
「知らないから恐ろしい」のが夫の本音
産まれたばかりの我が子のお世話が辛そうな妻の様子を見て、平気な夫はそういないでしょう。男性のほとんどは、何とかしてあげたいと心の中では思っています。どうして声をかけられないのかというと、“自分には育児の知識がまったくない”という恐怖があるからです。
授乳でもおむつ交換でもすぐにやれてしまう妻と違い、自分は教わらないとわからないことがたくさんあります。その気後れが、「手伝おうか」という言葉を飲み込ませます。機嫌の悪そうな妻の様子もまた、手を伸ばすことをためらう原因です。
例えば一度おむつの交換をやってみたいと妻に申し出る。でも、上手くできずに子どもが新しいおむつをはかせる前におしっこをしてしまった。妻が「さっさとしてよ」と怒る。それだけで、夫はやる気を失います。
育児の失敗を責められるのは、夫にとって父親としての自信が奪われることと同じ。もたもたしていれば妻の嫌味が飛んできたり、恥をかいたりすることが重なれば、いつしか赤ちゃんの世話は自分の仕事ではないと割り切るしかなくなります。
夫の本音は、「できれば妻から『こうして欲しい』と言ってもらえたら」という場合がほとんどです。赤ちゃんは弱く、もろく、繊細な生き物だからこそ、自分の扱いで何か間違いがあることを男性は恐れます。妻の助けがあれば、一緒に取り組めるので安心してお世話ができる。それこそが、夫の望みです。
「何もしてくれない」のではなく「何をすればわからない」から動けない。こんな夫の弱さを理解できれば、「少しは手伝ってよ!」と怒鳴る前に「お願いしてもいい?」という言葉が出てくるようになります。
言わないとわからないのはお互いさま
産後クライシスで苦しむ妻の多くが、「夫が私の大変さをわかってくれない」という不満を抱いています。確かにひとりで24時間赤ちゃんのお世話をしなければいけないことは、大きな負担ですよね。
その一方で、「大変なら頼って欲しい」と夫が思っていることもまた事実です。ご飯を作ることが大変ならお弁当を買ってくるから、洗濯がしんどいなら俺がするから、と思っていても、上手く気遣えずに「俺のメシは何とかするから」(と自分の分だけお弁当を買ってくる)などとんちんかんな方向に走ることもあります。
それでも、夫にとっては自分が妻の負担とならないよう、必死に考えた結果の行動でもあるのです。
妻が望むことは、口にしないと伝わりません。そして夫のほうもまた、自分のやれることは確認しないと妻にはわかりません。
「察して欲しい」と思ってイライラを募らせるより、して欲しいことは早めに言うほうが、夫にとっては助けになります。「ご飯を炊いて欲しい」「仕事帰りに買い物をお願いしたい」など、どんどん希望を伝えましょう。できないときはふたりで別の方法を考えれば良いのです。
辛いときは辛いと口にすることも、夫に気づいてもらう大切なサインです。「みんな大変なんだから」と我慢してしまうと夫は手が出せなくなります。赤ちゃんや自分に無関心に見えるときでも、まずは言葉をかけること。コミュニケーションを諦めてしまうことが、何より産後クライシスを加速させる原因になるのだと、忘れないでください。
幸せ夫婦コラムニスト ひろた かおり
「自分の人生は自分で決める」がモットー。難病の自分を支えてくれた夫との生活が幸せに続くように、と強く心に誓い日々を生きる。