
突然やってくる春の訪れに自律神経が対応不可能に!
「春の訪れ」というと、だんだん寒さが和らいできて、徐々に春めいてくるというイメージを持っている方も多いかもしれませんが、そうではありません。イギリスには「春はライオンのようにやって来て子羊のように去っていく」ということわざがあるくらい、春の訪れは荒々しく突然です。
思い出してみて下さい。3月に入って、強い南風とともに突然汗ばむような陽気になったかと思えば、翌日には寒さが戻りせっかく咲いた桜に雪が積もる、なんていうこともありますよね。春という季節は、冬の名残の空気と、南から押し上げてくる初夏の空気のせめぎ合いです。この激しい温度差によって低気圧が発達し、気温と気圧を激しく上下させるのです。
前章でもお話ししたように、私達の体は、自律神経によって、天気に関係なく体内の環境を一定に保っているわけですが、自律神経は急な対応がとても苦手です。急に暑くなったり、寒くなったり、気圧が変化したりすると、自律神経のバランスを崩し、様々な不調を引き起こします。
「うつヌケ」の著者、田中圭一さんも著書の中で、“激しい気温差”がうつ病の悪化の引き金になっていたとおっしゃっていました。
さらにいうと五月病は、新生活のストレスに加えて、急激な気温の変化による自律神経の乱れも一因と考えられているのです。
副交感神経の過度な働きによって眠気やだるさが訪れる
病気とまではいかなくても、春になると「眠い」「だるい」「仕事に集中できない」といった悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。「春眠暁を覚えず」という言葉があるくらい、春は誰しもがボーッとしやすい季節です。
この理由には諸説あったのですが、以前勤めていた気象予報会社で「生気象学」の研究に携わるようになった私は、とても納得のいく答えに出会います。
自律神経には、交感神経と副交感神経の2つがあります。昼間は活動モードである交感神経が優位になり、夜間はリラックスモードである副交感神経が優位になる、というのはご存知の方も多いかもしれませんが、自律神経のバランスは季節によっても変化します。
冬の間は寒さに対して体温が下がらないように、交感神経活の働きで基礎代謝を高めて熱を作り出しています。逆に暑い夏は体温が上がり過ぎないよう副交感神経の働きで基礎代謝を下げ、血管を広げて汗をたくさんかくことで体から熱を逃がしています。
5月の20℃はとても快適に感じても、春先の20℃はのぼせるような暖かさに感じますよね。まだ基礎代謝の高い春先に突然気温が上昇すると、体に熱がこもってしまうためです。こんなとき体は、体温を下げようとリラックスモードである副交感神経をせっせと働かせます。
副交感神経の過度な働き、これこそが春の暖かい日に眠気やだるさ、集中力の低下を招いてしまう一因なのです。
うつ病が悪化する⁉「フェーン現象」
気温上昇で気を付けたいキーワードは「フェーン現象」です。フェーン現象とは、山を越えた風が吹き降りる際に気温が上がる現象のことで、春は日本海側の地域に多く、季節外れの暖かさを招きます。「フェーン現象」が起きた日は、犯罪、自殺、交通事故が多発するとした調査レポートもあるほどで、昔からうつ病が悪化する気象条件のひとつとも言われています。
とくに最高気温が前日よりも5度以上上昇するような日は気をつけましょう。さらに、3月~4月はスギ・ヒノキの花粉シーズン。空気が乾燥し、黄砂やPM2.5など大陸からの飛来物が多いのも春の特徴です。
晴れて気温が上がる日は花粉や埃が舞い上がりやすく、眠気やだるさに加えて、鼻水や目のかゆみといったアレルギー症状で仕事や家事に集中できない人も多いのではないでしょうか。
私は花粉が少ないはずの曇りや雨の日のほうがツライ鼻水に悩まされます。副交感神経が働きやすい曇りや雨の日は、リンパ球が増えてアレルギー症状が出やすいのだそうです。
また、昨日まで暖かかったのに急に冷え込むというような日は、風邪や花粉症でもないのに鼻がぐずぐずする、くしゃみが出るなど、寒暖差による自律神経の乱れによって起こる症状もあります。寒暖差アレルギーと呼ばれ、医学的には血管運動性鼻炎と言って、イライラや食欲減衰や胃腸の不振を伴うようです。
急激な気圧の変化や寒暖の変化を起こすのが「爆弾低気圧」です。爆弾低気圧とは24時間で24hPa以上気圧が低下する低気圧(※北緯60度での定義)のこと。低気圧の通過後は寒気が流れ込むため、春の嵐から冬の嵐へと天気が豹変します。
また3月下旬から4月上旬の桜が咲く時期には、東日本や西日本を中心に「菜種梅雨」と呼ばれる天気のぐずつく期間があり、冷たい雨が続き内陸では雪が積もることもしばしば。
こんな時は、寒暖差アレルギーに気をつけてくださいね。
いかがでしょうか? 春はこのような理由から様々な体調不良を起こしがちです。ただし、天気予報をみて体調不良が起こると事前に分かれば対策を練ることもできます。ぜひ、自分がどんな時に体調不良を起こすかを知って、きちんと対策し素敵な春をお過ごしくださいね。
気象予報士/健康気象アドバイザー小越久美
2004年から2013年に渡り日本テレビの気象キャスターを務める。現在は(一財)日本気象協会に所属。