平栁敦子監督インタビュー 映画『オー・ルーシー!』主人公に吐かせたかった本音【#FocusOn】 | 大人のワタシを楽しむメディア
平栁敦子監督インタビュー 映画『オー・ルーシー!』主人公に吐かせたかった本音【#FocusOn】

平栁敦子監督インタビュー 映画『オー・ルーシー!』主人公に吐かせたかった本音【#FocusOn】

大学院修了作品として制作した短編『Oh Lucy!』の長編版として主演の寺島しのぶを初めとした豪華キャストで撮影された『オー・ルーシー!』が2017年のカンヌ国際映画祭批評家週間部門に日本人監督としては10年ぶりに選出されるという快挙を成し遂げた平栁敦子監督。2児の母でもある監督に映画やプライベートについてインタビュー


ホンネを言わない節子に吐かせたかったホンネ

この作品は元々大学院修了時の短編作品として制作したものです。授業でライティングエクササイズとして1日5本3行展開で脚本のアイディアを書かなければならなくて、そのなかで思いついた1本なんです。実在の人物からインスパイアされていますが、今まで会った人達や、自分の体験なども含まれています。

その実在の人物はホンネを全く言わない人でした。でもホンネを言わないって辛いだろうなあと思って。私もアメリカに留学したばかりの時に英語がまったく話せなくて、ホンネどころか何も言えなくなり自分という人格が日本にいる時とはまったく違うものになりました。

6歳の時に学校で一言も喋らない同級生がいて、家では大暴れしていると聞いてびっくりしたのを覚えているのですが、人間が普段見せている部分と隠している部分のようなものに小さい頃から興味があったような気がします。「先生が親の前では言っていることが違うぞ」とか「なんか嘘ついているな」とか大人の二面性みたいなものを感じて。「こういう大人にはなりたくない」って思っていました(笑)。人前でホンネを言わない、話さなくても実は心の中で色んなことを思っていて色んな気持ちが渦巻いている…。

人には他人から見られている自分と自分自身が見ている自分という存在があります。それをすべて脱ぎ捨てた時、中には何が残るのか…。素の自分になればきっと楽ではないか。でもそれはなかなか難しい…。そういう葛藤や自己矛盾みたいなものにコメディ要素を入れて「オー・ルーシー!」で描きたいなと思いました。

43歳独身ヘビースモーカー。会社では空気のような存在

主人公の節子(寺島しのぶ)はホンネを言わない独身43歳。会社では空気のような存在で、部屋はゴミ屋敷同然のヘビースモーカー。ホンネなんて一つも言わない地味な人です。

ホンネを言わない人ってとても苦しいと思うんです。言いたいことが言えてないんですから。病気は言いたいことを言わないでいるとなると説いている人もいます。

日本には「ホンネと建前」という言葉がありますよね。そういう歴史のなかで「無礼講」という文化も生まれました。上下関係なしに「ここでだけはホンネを言ってもいいぞ」というあれですね。昔なら“祭り”とか“武士の酒盛り”とか?(笑) そうやってガス抜きさせて、どこかホンネが言える場所がないと人間はいつか爆発しちゃうのではないでしょうか。だから普段は建前で通して年に何回かホンネを言わせる機会を設ける。そうやって生活してきた文化・歴史が日本にはしみついているかもしれないと思うんです。

けれど、今の日本…特に東京はそういう場所が果たしてあるのか…だからいつもみんなマスク(仮面)を被ってホンネを隠してピリピリしながら生きている。

私は人間が被っているマスクの下にあるものは“恐怖心”だと思うんですね。

「愛されなかったらどうしよう」「嫌われたらどうしよう」

そんな恐怖心をカバーするためにマスクを被る。でもそのマスクをすべて脱ぎ捨てて恐怖心をさらけ出したらどうなるか…? それを体現したのが節子です。

もっと世界に出て行って色々な文化に触れてほしい

日本では女性への期待値が世界の中でも高いのではと思います。「女性はこうあらねばならない」という考えがすごくたくさんある。例えば「女性は声が高いもの」と思われている傾向があるとか、「チェーンスモーカーだったら結婚するのが難しい」とか。今の若い世代では既に変わっているといいですが。「オー・ルーシー!」の中でそんな描写を取り入れていますが、そういった概念が欧米ではないためわからないようで、上映後のティーチインなどで説明しています。

そして、意外に(これは万国共通かもしれませんが)女性同士のほうが厳しい目で見ている。それは結局自分自身に厳しい目を向けているから他人も許せない。窮屈ですよね。色々な人間がいて良いと思うんです。

色々な人間がいることを知るために、もっともっと世界に出て行ったほうが良いのではとも思います。私自身がそうだったからです。色々な国の色々な文化に触れ、互いの共通点を見つける。言葉や文化を超えたところにある人の素顔を知る。そこに自分の素顔も見つける。

「窮屈さ」から飛び出したい一心で心配性なのに留学を決意

思春期は、日本社会、学校、家族かは分かりませんが、窮屈だった記憶があります。私は、実は心配性なのですが、それでも「やってみなくちゃわからない」と高校の時に留学を決意しました。

節子は半ば無理やり英会話の教室に通うことになるわけですが、もしかしたら彼女も自分の日常を少し変えたかったのかもしれないですよね。窮屈で退屈な日常を。

未来のことは誰にもわからない。でも行動を起こしてやってみたら何かが変わる。やってみて、クリアして小さな成功を積み重ねる。その繰り返しが大きな自信に繋がっていくんだと思います。私はそんな感じでした。

私の20代は暗黒時代。「NO」と言われ続けました。役者として山ほどオーディションを受けましたが99%はダメ。落ち続ける。それでもチャレンジし続けたのは諦めたらそこで「終わり」だと思ったからです。「挫折」という言葉は諦めた時に発生するものだと思っていました。チャレンジし続けている限り「挫折」ではないと。

どん底にいた時に救ってくれたのは、かけがえのない友人でした。シンプルに助言をくれたんです。

「体を動かしなさい」って(笑)

なので、素直に受け止めてジョギングを始めたんです。そうしたら本当に何か変わっていったんです。少しずつですが。まず、ストレスで過食になり太っていたのが痩せていった。贅肉が落ちるのと同時にネガティブで余計な思考もそぎ落とされていきました。なんでも溜め込んでいて良い事なんてないんですよね。考え続けることに意味はない。動かなきゃ始まらないんだって思いました。

そしてもうひとつ、わかったことがありました。

「良いことも悪いことも一生続かない」

すべてに終わりがあるんですよね。きちんと次に行く。

30代はドアが開いていく時期でした

20代がドアがどんどん閉じていく時期だったとしたら、30代は開いていく時期でした。出産したり、大学院へ入学したり、カンヌで賞をもらったり、…。素晴らしい時期だったと思います。もちろん今も充実した日々を過ごしていますが、あの学生時代のような五感(ひょっとしたら六感まで)をフルに使って素晴らしい仲間と共に死に物狂いで映画を学び、作っていた、というような経験をすることはもうないんだろうなあと思ったりもします。

30代はシンガポールに住んでいたのですが、先日久しぶりにシンガポールに行ったらもう懐かしくて…空港に着いた時、シンガポール独特のニオイでいろんな記憶が一気に蘇ってきました。息子はシンガポールで産まれて生後1年半くらいを過ごしたので、彼にとってはここが第二の故郷なんだなと感慨深くもありましたね。

現在はサンフランシスコに住んでいて、子育てに家事に仕事に追われて毎日ジャグリングしているみたいです(笑)。これを投げたと思ったら次が落ちてきて、次を投げたと思ったらまた別のボールが落ちてきて頭に当たる… (笑)

前回来日した時は春休みだったので子どもたちと一緒だったのですが、今回は学校が始まったので私ひとり! 一人の時間を完全に満喫しています。その代わり夫が大変なんですけど…(苦笑)

DNAに合った作品を撮っていきたい

今回の映画は完全に私のDNA(遺伝子)の中から生まれたものです。でも他の人が書いた脚本も私のDNAに何か繋がるものがあれば撮りたいと思っています。それは大作でもインディペンデントでも。ハリウッドでも日本でも枠にとらわれずにやっていきたいです。

原作を書いているのですが、いくつか脚本も送られてきていて色々考えているところです。待っていてくださいね。まずは「オー・ルーシー!」をお楽しみください(笑)

監督・脚本・プロデューサー
平栁敦子さん


長野県生まれ、千葉県育ち。高校2年生の時に渡米し、ロサンゼルスの高校を卒業後、サンフランシスコ州立大学で演劇の学位を取得。2009年、シンガポールのキャセイ財団の奨学金を受け、ニューヨーク大学大学院映画学科シンガポール校(NYU Tish School of the Arts, Asia)に入学。13年、映画制作の修士号を取得。同大学院2年目に制作した短編映画「もう1回」(12)がショートショートフィルムフェスティバル&ASIA 2012グランプリ、ジャパン部門優秀賞、ジャパン部門オーディエンスアワードをはじめ高く評価されたのに続き、桃井かおりを主演に迎えた修了作品の短編「Oh Lucy!」(14)もカンヌ国際映画祭シネフォンダンシオン(学生映画部門)第2位、トロント国際映画祭をはじめ各国で35を超える賞を受賞。「Oh Lucy!」の長編バージョンである本作『オー・ルーシー!』は16年、脚本の段階でサンダンス・インスティテュート/NHK賞を受賞、同賞のサポートを受けて制作された。プライベートでは2児の母で極真空手黒帯初段の保持者。

第70回カンヌ国際映画祭 批評家週間正式出品

『オー・ルーシー』


【あらすじ】
節子43歳、独り身。職場では空気のような存在、一人暮らしの部屋は物だらけ。そんな節子の毎日は、怪しげな英会話教室で金髪のウィッグをかぶり“ルーシー”になった瞬間、色鮮やかに一変する。「ヘイ! マイ・ネイム・イズ・ルーシー!」「ワッツ・アップ?」“ルーシー”によって自分の中に眠っていた感情を呼び起こされた節子はハグしてくれたイケメンの講師ジョンの愛を求め、東京から一路カリフォルニアへ! 旅の果てに節子は誰とハグできるのかー? カンヌ国際映画祭を皮切りに海外映画祭を席捲した話題作がついに日本のスクリーンに登場する!

【キャスト】
節子/ルーシー … 寺島しのぶ
綾子      … 南 果歩
美花      … 忽那汐里
小森/トム   … 役所広司
ジョン     … ジョシュ・ハートネット

映画『オー・ルーシー!』公式サイト

http://oh-lucy.com/

4.28(Sat)ユーロスペース、テアトル新宿他にてロードショー。カンヌ国際映画祭批評家週間部門出品、インディペンデント・スピリット賞Wノミネート。映画『オー・ルーシー!』公式サイトです。



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