
夫婦の数だけセックスがある!
前回より『いくつまでセックスできるか問題』を紐解いています。セックスの土台を築いておけばタイムリミットなどないというのが私の論理です。セックスにスタンダードはありません。誘い方も、体型も、かける時間も、そして何歳までするかも。満足感は人によって様々なのですからカップルでスタンダードを決めてゆけばよいと思います。そして年齢による体力の衰えや、相手との関係性の変化でセクシャルデザイアーも変動するのですから、スタンダードも柔軟に替えてゆくのが理想です。
いつまでも若い頃のように、ぶつかりあい、高みを目指すセックスをするのは不可能です。体力のみならず、オバフォー世代には「夫婦仲マンネリ化」という強烈な壁も待ち受けていますからセックスもマンネリになって、面白くなくなっていることでしょう。
となると、今までスタンダードだと思っていた行為そのものを変えてみるというベッド上での決心も必要となります。感動力や対応力が固まってきているオバフォー世代に「セックスのやりかたを変革する」という挑戦なんかできない・・と思うかたがほとんどでしょうが、その決意をせずして「セックスレスを改善したいんです」と相談するなどもってのほか。
高齢化社会、まだまだ先は長いのです。おじいちゃんおばあちゃんになっても手を繋いだり、チュッとできる若々しい夫婦でいたいと思い巡らすなら、セクシーな関係性を排除してはいけません。

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生活力が上がってセックスを拒みやすくなった⁉
『セックスレス時代の中高年「性」白書』という本が出版されました。日本性科学会のセクシュアリティ研究会の先生方が関東圏在住の40~79歳の男女にセックスに関する調査(有効回答1,162人)を行い、分析した結果がグラフでわかりやすく掲載されています。SEXの頻度で「この1年まったくない」という女性は40代で30%(意外に少ない?)50代で53%、60代で66%、70代で76%でした。セックスレスの割合は40代で54%、50代で75%です。たくさんの人の統計だからこれがスタンダードだ、と安心してはいけません。著者のお一人、荒木乳根子先生が12年前の過去調査結果と比較されたところ、妻が拒否する割合が増加しており、妻とのセックスを望んでいる男性の半数以上が満たされていないという結果が出たそうです。
私が運営する相談所では「妻側からのセックスレス相談」が大きな割合を占めますが、たしかに「妻を誘ってもスルーされる夫」も数多く存在するわけです。就労女性が増えたため、女性側が「仕事で疲れてるの&明日の朝は早いから」という言い訳ができるようになりました。そして経済的に強くなったので「拒みやすくなった」こともあるように思います。昔は夫の収入に頼る妻が多かったため、「セックスしたくないわ」と言いにくかったのです。生活費用とのバーターでのセックスが余儀なくされる時代でした。(追記:愛ある夫婦なら喜んで受け入れたでしょうが)今や、家庭を仕切るプロデュース妻が増加しています。「今週の私の予定に夫とのベッドインはない」とセックスまでプロデュースする妻がいることは確かです。
シニアだってセックスを諦めない!
フランスの心理学者マリーさんが書いた「セックス・アンド・ザ・シックスティーズ」には数々のシニアカップルへのインタビューが散りばめられています。80代夫婦のピエールとマリーサの話には胸が揺すぶられました。
マリーサはこう言いました。「彼のキスの仕方がうまいから、まいっちゃった。私たちは80代だけど愛をかわしたいと思っている。でも彼が(挿入を)しなくなって久しいから性科学の先生に診てもらう」と。なんてポジティブなご夫婦なんでしょう!
そして今までツインベッドだったから絡み合うチャンスがなかったので、今度大きなベッドを購入するとまで言います。対するピエールは勃起にこだわっていて「挿入がなければ女性は不満でしょう」などと悩んでいますが、このご夫婦は「セックスのスタンダード」から解放されてない気がしました。
挿入がなくとも、大きなベッドで愛を与え合うことはできるはずです。シニアセックスの悩みはつきませんが常に二人でセックスに向き合う生き方から、みなぎる力を感じます。とても80代のご夫婦とは思えません。
私がお話をきいた日本人の茂雄さん(仮名・80歳)は病気で入院中の奥さんが、一時期自宅にもどられたときに、お風呂できれいに洗ってあげてそのまま二人とも裸でお布団にはいり、髪や身体、性器を撫で合いました。奥さんは涙を流して喜ばれ「あなたのために早く病気を治す」と、とても力強く答えられたそうです。このお話も、性は元気の源だと感じたお話でした。
シニア世代の恋愛事情には、まだピンと来ないオバフォー世代です。しかし前回も述べたように「セックスの土台を築く」のはもはや今しかありません! セックスレスや、気乗りがしないつまらないセックスをずるずる継続していては、将来、ピエールさん夫妻や茂雄さん夫妻のように「こんな夫婦になりたいな♡」と思ってもらえるような理想のカップルにはなれませんぜ! ということです。
ドライで小言ばかり言い合う夫婦より、「老いたボディで、どうしたら残りの時間をもっと愛し合えるか」を真剣に悩む夫婦のほうがだんぜん幸せな年のとり方だと思います。
夫婦仲相談所所長/執筆家 三松真由美

セックス・アンド・ザ・シックスティーズ
著者 マリー・ド・エヌゼル 心理学者、心理療法士、作家。英語教師を務めた後に大学に戻り、 臨床心理学・精神分析学を学ぶ。1975年から心理学者としてキャリアを開始。 1986年に当時のフランス大統領フランソワ・ミッテランの勧めにより、 フランス最初の緩和ケアチームに参加。人々の生を見つめ、 幸福な老いについて考えるようになった。 ロベール・ラフォン社から刊行された代表的な著作に、 『死にゆく人たちと共にいて』(邦訳:白水社刊)、 『La chaleur du cœur empêche nos corps de rouiller(熱い心があれば体は衰えない)』、 『Nous voulons tous mourir dans la dignité(みんな人間らしく死にたい)』がある。
恋愛・夫婦仲コメンテーターとして活躍中。講演・テレビ出演多数。