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「セックスレス=不幸」と煽ることは危険だと思います

―『食べる女』では多様な女性の性に関する価値観が描かれています。今、日本はセックスレスが社会問題にもなっていますが、壇蜜さんはどうしてセックスレスになってしまうと思いますか?
それはそれぞれのご夫婦の間で様々な理由があると思います。ですが、そもそものお話になってしまうのですが、性的な悦びだけが女性の悦びではないですよね。もし仮にセックスレスの果てに念願のセックスをしたとして、そこに愛を感じるのでしょうか? 義務になっていただけで、目標を達成しただけのような状態にならないでしょうか?
―なるほど…たしかにセックスレスを解消したからといって、愛や喜びを感じられなければ虚しいだけですね…。
ええ。セックスレスをセックスで解消することが目的になってしまうのはどうかなあと思います。ましてや浮気などで満たすことを優先するのではなくて、本当に自分がしたいこと、幸せだと感じることは何なのか、ということを探してみることからまず始めるべきではないでしょうか。もちろん、セックスを喜びとして“したい”と思っているのなら、それはその人の幸せのカタチですからいいと思います。

―映画のなかでツヤコはミドリの提案もあり、トン子の家に家族で下宿することになりますね。それもまた、ツヤコが本来の自分に立ち返って幸せを追求した結果なのでしょうね。
そうですね。ツヤコはトン子との生活でどんどん自分を取り戻していって、ちゃんと幸せを見つけていくのだと思います。セックスレス問題に関していえば、メディアの責任も大きいと思います。「セックスレス=不幸」だから、それをどうにしかして解消しなければいけない、という図式をつくりすぎていると思うんです。そもそも、もしもそうだとしたら、パートナーがいない独身の人たちは全員不幸なのでしょうか? 逆に頻繁にセックスをしている人は必ず幸せなのでしょうか?私はそうは思いません。その人にもきっと不幸な部分がある。生きる喜びはそれぞれみんな違います。「セックスレス=不幸」という刷り込みに振り回されずに自分自身の幸せを探してほしいなと思います。
食欲も性欲も満たしたいと思う人が満たしたい時に満たせばいいんです

―大勢の人の意見が正しいとする風潮は日本は特に強いと思います。みんながそうだからって自分もそうじゃなきゃいけないわけはないんですよね。
そうですよね。みんながみんな食欲があって食べることが好きなわけじゃないですし。食べることが苦痛という人だっているかもしれませんよね。
―壇蜜さんのエッセイ、『たべたいの』にもそういった一文がありましたね。「食べることが好きかと聞かれると困る。生活するための手段、一環なので好きか嫌いかで答えられない」と。
はい。みんながみんなその行為を欲していて好きなわけはないんですよね。だから自分自身の感覚を大切にして欲しいです。セックスに関しても食事に関しても頻度も度合いも様々でまったく欲しない人が異常なわけではないはずです。「私は満たされていない」と感じた時に「みんなはどうなんだろう?」と調べることは本当に危険だと思います。食欲だって性欲だって満たしたい時に満たしたい人が満たせばいいんです。
―映画では最後のシーンでそれぞれの女性たちがひとりで美味しそうにたまごかけご飯を食べているのが印象的でした。まさに今、壇蜜さんがおっしゃったことですね。
みんなで食べる食事は本当に美味しいと思います。ですが、ひとりで本当に食べたいと思うものを好きな時間に食べること。これは最高の贅沢であり、自分らしさであり、自由だと思います。
セックスレスだって言っておけば変に嫉妬されなくてすみますよ(笑)

―映画の中の女性たちはそれぞれの“性”と“食”に一生懸命向き合っていましたね。
性的な接触が好きな人もいれば、久々に結ばれる人もいる、かたやトン子はセックスには頼らずに生きている…。映画の中には性的マイノリティの方も登場しています。セックスに関する距離感は本当にみんなそれぞれです。そういう多様なセックス観、恋愛観を感じてもらえたらと思います。
―友達同士でもリアルなセックス観や恋愛観をマウンティングし合わずに話すことってなかなかできないですものね。
そうですよね。自分の性的なことをリアルに話すことはなかなかできないですよね。そもそも表にだしてどうどうと話すことじゃないし…。それに他人と比べてセックスレスだからって落ち込むんじゃなくて、お金があって家族がいて雨風しのげる家があるなら十分幸せだって感じて欲しいですね(笑)それにですよ、セックスレスだって言っておけば妬まれなくてすみますよ。
―え!どういうことですか?
「あの家セックスレスなのね。うちは月一でセックスしてるわ。弾んでないわね。私より不幸ね」って(笑)
―なるほど(笑)
不幸だと思われた方がいいですよ。「お金貸してくれー」とか「ホームパーティひらいて」とか面倒くさいこと言われなくてすみますから(笑)
―さすが壇蜜さんです(笑)斬新です。
縛りや抑圧がなくなった時、女性は本当に幸せになれるのでしょうか

―映画のなかでも差別的な扱いを受ける女性が描かれていますが、今、世界中で女性差別問題について声が上がっています。特に日本は男女格差(ジェンダーギャップ)が大きいとも言われています。壇蜜さんはそんな現状についてどう思われますか?
こんなことを言ったらフェミニストの方からお叱りを受けるかもしれませんが…私は、女性は抑圧されているからこそ、自分が生きている実感を得る部分が少なからずあるのではないかって思います。例えば、小さい時に女だからという理由で男の子同士の遊びに入れてもらえない、係につかせてもらえないなどの経験をした女性は多いと思います。そんな時、「本当はやれる」って心の中で思っていますよね。その「本当はやれる」って思う部分が自分自身のエネルギーになると思うんです。そういう縛りや抑圧がすべて取り払われた時に本当に幸せを感じられるのかなって。男性と全く同じことをして、同じような態度をとることにエネルギーを注ぐより、そのエネルギーの出し方を変えてしたたかに生きている女性の方がモテそうですし(笑)
―なるほど(笑)それはそうかもしれませんね。男性にとって、女性が自分たちと全く同じことをして、同じような態度でいられたら、そこに魅力を感じるのかどうか…といえば、そうではないかもしれない。
ええ。もちろん女性は男性のために生きているわけではありませんが…。でも男女が共存して生きていくこの世界で、そういうエネルギーの出し方は実は女性にとってなかなかしんどいんじゃないかなって。別ルートで賢く生きる術を身に着けることも女性としての強さなのではないかなとも思います。
『食べる女』はいわゆる“幸せになりましたとさ。めでたしめでたし”のおとぎ話ではありません

―今日はアラフォー世代であるWOMe読者の関心の高い話題について、たっぷりお話いただきまして本当にありがとうございました!最後に、『食べる女』の見どころについてお聞かせください。
WOMeの読者の方々自身がそうだと思いますが、今を生きる女性たちは多様性に富んでいます。映画のなかには様々な職業の環境も考え方も違う女性たちが出てきます。自分に近しい人が出てきて思わず感情移入してしまう人も多いのではないかと思います。映画のなかの女性たちは最後のシーンで幸せな笑顔を浮かべていますが、一点の曇りもない幸福を手に入れたわけじゃないんです。愛に傷ついて必死に立ち直っている最中なんです。先ほどお話にも出ましたが、ひとりでそれぞれのスタイルでたまごかけご飯を食べて、ひとりで幸せを噛みしめて、また明日頑張ろう!って生きている人生の途中なんです。急に幸せになんかなれません!(笑)なので、どうぞ人生の真っただ中でもがいて頑張っている女性たちを観に劇場に足を運んでください。今日はありがとうございました。
―素晴らしいお話ありがとうございました!

タレント
壇 蜜さん
1980年12月3日生まれ、秋田県出身。多彩な経歴を経た後、グラビアモデルとして芸能活動をはじめ、現在はバラエティ、情報番組などへのテレビ出演からラジオや雑誌などでの執筆活動までも行う。女優としても幅広いジャンルで活躍し、「アラサーちゃん 無修正」(14),「ホリデイラブ」(18)、などのテレビドラマや、『サンブンノイチ』(14)、『関ヶ原』(17)、『星めぐりの町』(18)などの映画作品に出演する。

『食べる女』
【あらすじ】
とある東京の古びた日本家屋の一軒家、通称“モチの家”。家の主は雑文筆家であり、古書店を営む・敦子(トン子)。女主人はおいしい料理を作って、迷える女たちを迎え入れる。男をよせつけない書籍編集者、いけない魅力をふりまくごはんやの女将、2児の母であり夫と別居中のパーツモデル、ぬるい彼に物足りないドラマ制作会社AP、求められると断れない古着セレクトショップ定員、料理ができないあまり夫に逃げられた主婦、BARの手伝いをしながら愛をつらぬくタフな女・・・。今日も、人生に貪欲旺盛な女たちの心と体を満たす、おいしくて、楽しい宴が始まる。
【キャスト】
小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香
ユースケ・サンタマリア、池内博之、勝地涼、小池徹平、笠原秀幸、間宮祥太朗、遠藤史也、RYO(ORANGE RANGE)、PANTA(頭脳警察)、真木蔵人
原作本:筒井ともみ『食べる女 決定版』(新潮文庫・8月末刊行予定)
(C)2018「食べる女」倶楽部

今夜も、女たちの心と体を満たす、おいしくて楽しい宴が始まる。
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