【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(15) | 大人のワタシを楽しむメディア
【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(15)

【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(15)

いよいよ最終回。周囲の反対にあい望まれない出産を選択した千恵を見て今日子は何を思うのか。


▶この記事をWOMeのアプリでサクサク読もう♡ コスメから大人の恋愛事情まで…

第一話を読む
第二話を読む
第三話を読む
第四話を読む
第五話を読む
第六話を読む
第七話を読む
第八話を読む
第九話を読む
第十話を読む
第十一話を読む
第十二話を読む
第十三話を読む
第十四話を読む


父親から反対されても、千恵は出産した。世間から許されないこともでも産んで育てるという千恵の強さに打たれた今日子は、院長室に向かう間、病室でのことを反駁した。私には彼女のような強さが果たしてあったのだろうか。5年前の自分と千恵が重なり合う。

千恵のような圧倒的な母性は、自分にはなかった。でも悔やんでも仕方がない、自分は精いっぱいやっていたのではないだろうか。応接室で新田医師に向き合うと、今日子は病室での感動が蘇ってきた。

「さっき千恵さんから、感謝の言葉をもらいました。実はそういうことだったのですね」

しんみりとなった今日子に、新田が頷いた。

「千恵さんから聞いたのですね」
「ええ」
「そうですが。では助けていただいたついでといってはナンですが」

Getty logo

と、言いかけた新田が、黙った。ほんの5秒くらいの短い間のようであり、5時間以上の長い沈黙のようでもあった。

「今後も千恵さんの力になっていただけませんか」

多少は予想していたとはいえ、いざ目の前で頼まれると、改めて意外な気がした。なぜ新田医師は献身的なのだろう。

「産科の先生が、なぜシングルマザーの面倒を見るのですか」

ストレートに疑問をぶつけてみると、予想もしなかった答えが返ってきた。

「面倒はみません。ここはあくまでも産科クリニックです。面倒は見ませんが、誕生した子供や母親のその後のことは気になります。入院している患者なら、なおさらです」
「やはり冷たくなさらないのですね、先生は」

今日子はテーブルにある茶碗を手に持った。冷めた日本茶が喉をさっと潤した。

「私にどうしろと」

新田に視線を注ぐと、新田の目が輝いていた。

「山本さん親子を支援するところを知っていませんか。できたら富士吉田市ではなく、東京などで」
「シングルマザーとその子供を支援するNPOのことですね」
「もし支援の機関でお知り合いがいればぜひ。女性サイトの編集長なら、ネットワークをたくさんお持ちでしょう」

熱心なまなざしでシングルマザーを支えようとする新田に、今日緒は不思議な感動に包まれた。

「先生はなぜ」

と言いかけて、口をつぐんだ。新田の仲人が結婚相談所のアプリで訴えた一文が思い出される。

「この方は後を継ぐ人が欲しいので、子供連れの方を希望しております」

職業欄には「医師」ではなく「独立自営業」とあった。しかも仲人からのメッセージには「両親や兄弟が相次いで他界し、天涯孤独。たいへん男らしい方で、不動産資産などの管理をする後継者が欲しいそうです。一刻も早く家庭を持っていただきたいと願っています」。

あれは新田の心情を代弁していたのだろうか。シングルマザーとその子供を熱望する新田に、深い事情がありそうだ。

「どうして先生は」

今日子は新田をまっすぐに見つめた。

「シングルマザーを支援するのはなぜですか。何か理由でもあるのでしょうか」

さっきと同じ質問だったが、今度は新田の顔が少し曇った。

「患者さんはみんな同じです。家族に囲まれて、幸せそうにクリニックから退院する方もいれば、いろんな事情を抱えている方もいます」
「答えになっていませんわ」とため息交じりに
「私はシングルマザーを支援する団体を個人的に知らないので、お力になれないかも」と言いかけると、
「僕には、医者としてではなく、個人的にシングルマザーを助けなければならない事情があるのです」

目の前の男の眼には、まっすぐで純真な決意が現れていた。
男の唇が震えて、何かを語りたがっている。だが唇が開かれることはなかった。再び沈黙が流れた。

「先生、私」

ふいに新田に全てを打ち明けたい衝動にかられた。

私もシングルマザーだったかもしれないの。

今日子は過去を思いやった。だが過去よりも目の前の男に心が奪われそうだった。私がシングルマザーだったら、あなたのパートナー候補になっていたかもしれないのに……シングルマザーだったら、頼りになる男らしいあなたが私の子供を守ってくれたかもしれないのに……。

ありえない想像をしながら、今日子は、5年前に自分は本当に母親になりかたったことを思い出した。シングルマザーとして生きることを覚悟していたほど、お腹の中の赤ちゃんを愛していたのだ。

「私は」とさらに言いかけると、新田の姿がぼやけていった。涙をこらえて、バックからハンカチをとると

「大丈夫ですか」と新田の優しい声が響く。

見つめられると、もっと好きになりそうな気がして、今日子はあわててハンカチで目を覆った。

(了)

作家 夏目かをる



本サイトに記載する情報には充分に注意を払っておりますが、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、完全性、正確性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動や、判断・決定は、ご自身の責任において行っていただきますようお願い致します。

この記事のライター

ワーキングウーマン2万人以上の取材をもとに、恋愛、婚活、結婚をテーマにコラム、ルポ、小説など幅広く活動中。

関連するキーワード


夏目かをる 恋愛小説

関連する投稿


【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(14)

【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(14)

第二章、WEBメディアの編集長としてキャリアを積む独身・今日子。過去の自分の隠しておきたかった出来事を百合に告白し涙が止まらなくなる――。


【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(13)

【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(13)

第二章、WEBメディアの編集長としてキャリアを積む独身・今日子。ミステリーだった過去からの手紙の理由が明らかになって安心する今日子だった。


【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(12)

【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(12)

第二章、WEBメディアの編集長としてキャリアを積む独身・今日子。助けた妊婦は無事に出産できたが、身元不明だという。


【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(11)

【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(11)

第二章、WEBメディアの編集長としてキャリアを積む独身・今日子。思わぬことで妊婦を助けることに…。


【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(9)

【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(9)

第二章、WEBメディアの編集長としてキャリアを積む独身・今日子は年下の彼氏・坂口健太との順調な恋愛を楽しんでいた。そんな時、5年前に別れた江口貴彦から手紙が届く。健太の浮気現場を見てしまい動揺した今日子は交通事故にあい病院に搬送されてしまう。ようやく退院できたと思ったら今度は編集部員が大量に突如やめたと連絡が…。


オススメ情報

dummy

人生100年時代 40代からの転職術

業界最多の非公開求人からご希望に沿った求人をご紹介、あなたの転職を成功に導きます。


リクルートエージェント


dummy

母であり妻であり、そして“働く女性”であり。働き続ける女性を応援!

業界最多の非公開求人からご希望に沿った求人をご紹介、あなたの転職を成功に導きます。


リクナビNEXT


最新の投稿


“におい”対策してますか? デリケートゾーンの正しい洗い方【大人のデリケートゾーン&膣ケア#4】

“におい”対策してますか? デリケートゾーンの正しい洗い方【大人のデリケートゾーン&膣ケア#4】

40代からはじめる大人のデリケートゾーンケア。今回は、デリケートゾーンの基本ステップその1「洗い方」についてお伝えします。これまで丁寧にケアしてこなかったという方も、遅くはありません。一緒にこれからケアを始めましょう!


夫以外としてみたい…そう思ってしまった時は【幸せ夫婦コミュニケーション術 #44】

夫以外としてみたい…そう思ってしまった時は【幸せ夫婦コミュニケーション術 #44】

決して夫のことが嫌いなわけじゃないし、仲も良い。でもなぜか無性にほかの男性ともしてみたくなってしまう…。ひとりの男性と長く過ごす結婚生活では、そんな瞬間が訪れることもあります。ですが、安易な浮気は決してお勧めできません。そんな欲望は、胸に秘めたままこっそり解消しましょう。


スープで“味のチューニング”をしよう『朝10分でできるスープ弁当』著者スープ作家有賀薫さんインタビュー<最終回>#FocusOn

スープで“味のチューニング”をしよう『朝10分でできるスープ弁当』著者スープ作家有賀薫さんインタビュー<最終回>#FocusOn

『朝10分でできるスープ弁当』(マガジンハウス)が発売1か月で4万部ベストセラーと話題のスープ作家 有賀薫さん。スープ弁当の魅力についてたっぷり伺ったインタビューです。


【大湯みほの美味しい菌活ライフ #3】毎日かき混ぜなくても大丈夫♪カンタンぬか漬け保存術

【大湯みほの美味しい菌活ライフ #3】毎日かき混ぜなくても大丈夫♪カンタンぬか漬け保存術

体調管理は、乳酸菌たっぷりのぬか漬けで免疫力アップです! 今回はGWということで…みなさんがお困りになっている、旅行に行く際や、長期で家をあける時の、ぬか床の保存方法をこっそり教えちゃいまーす☆


別居?離婚? 別居前に読んでおきたい別居の種類とメリット・デメリット【40代別居の基本 総まとめ】

別居?離婚? 別居前に読んでおきたい別居の種類とメリット・デメリット【40代別居の基本 総まとめ】

「別居したい」「別居してほしいと言われた」別居にはいろいろな始まりがあります。ですが、一つ言えることは“事前準備は欠かせない”ということです。特に40代の別居は自分だけの問題ではなく、子供や両親、相手の両親など、これから人生をどうするかの大きな分岐点になるでしょう。最近では卒婚なんていう言葉が出てきましたが、結婚生活をどんなカタチで継続させるのか、させないのか、様々なパターンを冷静に考えましょう。怒りに任せて家を出たり、相手に別居してほしいと言われて話し合いをすることなく動揺して許してしまった、なんてことがないように。まずは一息ついて、この記事を読んで、賢い別居生活をスタートさせてくださいね。


友だち追加






人気記事ランキング


>>総合人気ランキング

画像 apple google