【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(15)

【夏目かをる 恋愛小説】眠れない夜 第二章~今日子の場合(15)

いよいよ最終回。周囲の反対にあい望まれない出産を選択した千恵を見て今日子は何を思うのか。


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父親から反対されても、千恵は出産した。世間から許されないこともでも産んで育てるという千恵の強さに打たれた今日子は、院長室に向かう間、病室でのことを反駁した。私には彼女のような強さが果たしてあったのだろうか。5年前の自分と千恵が重なり合う。

千恵のような圧倒的な母性は、自分にはなかった。でも悔やんでも仕方がない、自分は精いっぱいやっていたのではないだろうか。応接室で新田医師に向き合うと、今日子は病室での感動が蘇ってきた。

「さっき千恵さんから、感謝の言葉をもらいました。実はそういうことだったのですね」

しんみりとなった今日子に、新田が頷いた。

「千恵さんから聞いたのですね」
「ええ」
「そうですが。では助けていただいたついでといってはナンですが」

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と、言いかけた新田が、黙った。ほんの5秒くらいの短い間のようであり、5時間以上の長い沈黙のようでもあった。

「今後も千恵さんの力になっていただけませんか」

多少は予想していたとはいえ、いざ目の前で頼まれると、改めて意外な気がした。なぜ新田医師は献身的なのだろう。

「産科の先生が、なぜシングルマザーの面倒を見るのですか」

ストレートに疑問をぶつけてみると、予想もしなかった答えが返ってきた。

「面倒はみません。ここはあくまでも産科クリニックです。面倒は見ませんが、誕生した子供や母親のその後のことは気になります。入院している患者なら、なおさらです」
「やはり冷たくなさらないのですね、先生は」

今日子はテーブルにある茶碗を手に持った。冷めた日本茶が喉をさっと潤した。

「私にどうしろと」

新田に視線を注ぐと、新田の目が輝いていた。

「山本さん親子を支援するところを知っていませんか。できたら富士吉田市ではなく、東京などで」
「シングルマザーとその子供を支援するNPOのことですね」
「もし支援の機関でお知り合いがいればぜひ。女性サイトの編集長なら、ネットワークをたくさんお持ちでしょう」

熱心なまなざしでシングルマザーを支えようとする新田に、今日緒は不思議な感動に包まれた。

「先生はなぜ」

と言いかけて、口をつぐんだ。新田の仲人が結婚相談所のアプリで訴えた一文が思い出される。

「この方は後を継ぐ人が欲しいので、子供連れの方を希望しております」

職業欄には「医師」ではなく「独立自営業」とあった。しかも仲人からのメッセージには「両親や兄弟が相次いで他界し、天涯孤独。たいへん男らしい方で、不動産資産などの管理をする後継者が欲しいそうです。一刻も早く家庭を持っていただきたいと願っています」。

あれは新田の心情を代弁していたのだろうか。シングルマザーとその子供を熱望する新田に、深い事情がありそうだ。

「どうして先生は」

今日子は新田をまっすぐに見つめた。

「シングルマザーを支援するのはなぜですか。何か理由でもあるのでしょうか」

さっきと同じ質問だったが、今度は新田の顔が少し曇った。

「患者さんはみんな同じです。家族に囲まれて、幸せそうにクリニックから退院する方もいれば、いろんな事情を抱えている方もいます」
「答えになっていませんわ」とため息交じりに
「私はシングルマザーを支援する団体を個人的に知らないので、お力になれないかも」と言いかけると、
「僕には、医者としてではなく、個人的にシングルマザーを助けなければならない事情があるのです」

目の前の男の眼には、まっすぐで純真な決意が現れていた。
男の唇が震えて、何かを語りたがっている。だが唇が開かれることはなかった。再び沈黙が流れた。

「先生、私」

ふいに新田に全てを打ち明けたい衝動にかられた。

私もシングルマザーだったかもしれないの。

今日子は過去を思いやった。だが過去よりも目の前の男に心が奪われそうだった。私がシングルマザーだったら、あなたのパートナー候補になっていたかもしれないのに……シングルマザーだったら、頼りになる男らしいあなたが私の子供を守ってくれたかもしれないのに……。

ありえない想像をしながら、今日子は、5年前に自分は本当に母親になりかたったことを思い出した。シングルマザーとして生きることを覚悟していたほど、お腹の中の赤ちゃんを愛していたのだ。

「私は」とさらに言いかけると、新田の姿がぼやけていった。涙をこらえて、バックからハンカチをとると

「大丈夫ですか」と新田の優しい声が響く。

見つめられると、もっと好きになりそうな気がして、今日子はあわててハンカチで目を覆った。

(了)

作家 夏目かをる



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