不倫遺伝子を持っていてもいなくても結局不倫する

――本日はよろしくお願いします。本の中であらゆる角度から「人類は不倫をするものだ」ということが書かれていて圧倒されてしまいました(笑)
はい、そうです。生存戦略なので残念ながら仕方のないことです。人間の脳は一夫一妻型にはできていないんですよ。
――(苦笑)特に衝撃だったのが“不倫遺伝子”の存在です。不倫遺伝子を持っていたら必ず不倫してしまうのでしょうか?
必ずしも100%不倫するというわけではないんです。ただし、持っている人のほうが、有意にその確率は高い。でも、そもそも不倫遺伝子を持っていなくても不倫する場合があります(笑)。
――ああ…(笑)そもそも不倫を悪いことだとして、社会的制裁(サンクション)を行うことがナンセンスということなのでしょうか。
そうともいえます。歴史を繙いてみれば、平安時代は通い婚で男女ともに複数の人と関係を持つのは当たり前でした。戦国武将だって何人も妻がいました。
――しかし、当たり前のことだったとはいえ、そこには嫉妬の感情などはありましたよね。
「安定型」「回避型」「不安型」3パターンに分けられる
もちろんそれも生存戦略なんです。自分の遺伝子を効率よく残すのに障害となる誰かを排除しようとする行動を促進するために嫉妬という感情が使われます。ただし、 複数の人との関係に比較的寛容な時代であろうが現代であろうが、やはり嫉妬という感情は良いものとしては描かれない。源氏物語に出てくる六条御息所は嫉妬感情といえばこの人、ともいうべきアイコンのような存在ですが、本人もそれに苦しみ、剰えそれで人が亡くなるという、読み手に大きな不快感を与える存在として描かれています。文学ではこれが物語に深みを与えるわけですが、とはいえ当時も嫉妬は欠点であると認識されていたわけです。
――なるほど……著書では不倫をしてしまう原因は不倫遺伝子だけではなく、成長過程において養育者との関係性の中で「安定型」「回避型」「不安型」に分けられ、「回避型」と「不安型」の人は不倫しやすいと書かれていました。できるなら結婚相手は「安定型」が望ましいと思います。見分けるポイントはありますか?
未就学児童を対象にしたテストは行われています。養育者とふたりで部屋にいるんですが、しばらくすると養育者は15分ほど席を外します。そして戻ってきた時にどういう態度をとるかでその子どもが「安定型」か「回避型」か「不安型」かわかるんです。
――それぞれどんな態度をとるんですか?
「安定型」は素直に喜ぶ。「ああ帰って来てよかった」と安心するんですね。「回避型」はしらんぷりします。「不安型」はより激しく泣いたり責めたりします。パートナーが子どもの頃にそういうシチュエーションになった際、どんな態度をとっていたか聞ければいいんですが、なかなか難しいですよね(笑)
――そうですね。ぜひ大人の男性の見極め方を教えてください(笑)
二人が離れる時、どこに行くのか、何時に行くのか、いつ帰ってくるのか、など色々聞いてくる人は不安型の可能性が高いですね。こちらも不安定型であると、これを「愛情」と勘違いして、互いに依存するような不健康な関係が形成されます。安定型の人なら、さみしいけど楽しんでおいで、と送り出してくれるでしょう。
一方、回避型の特徴的な振る舞いは、お願いごとをしたり、苦しい時に助けを求めたりすると、不機嫌になったり怒り出したりする点です。安定型の人なら、自分を頼ってくれた、とうれしく思うものですが、回避型の人はそうではない。俺に面倒をかけるな、俺の心に近づこうとするな、というわけです。
――なるほど…もしも相手が「回避型」「不安型」だったとして、どうしたら「安定型」にすることができますか?
そもそも不倫をするしないは相手の問題。自分のせいではない

まず自分が「安定型」になることですね。そもそもですけど、不倫をするしないって相手の問題なんですよ。自分の問題ではない。相手の選択なんです。
――というと?
どんな条件で不倫をするかなんて、まったく分かりませんよ。夫婦喧嘩の腹いせにする人もいるでしょうし、セックスレスが原因の人もいるでしょうし。不倫をする意思決定はその人がしていることで、自分には関係ないんです。
――ああ…女性は不倫をされると「自分の○○がいけなかった」と反省しがちですよね。
まったく落ち度がなくても不倫をされることもあります。いくら反省してそこを改善したところで、不倫をする相手なら、また違うことを理由にして不倫しますよ(笑)
第二回につづく
――中野信子さんに淡々と「人間は不倫をするものだ」ということを説かれると、「不倫をした」だ「不倫をされた」などと取り立てて騒ぐ程の問題ではないような気がしてきました…。次回は嫉妬の感情と向き合うには? などについてのお話です。
文/和氣恵子 撮影/鈴木志江菜

脳科学者 中野信子さん
脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。
著書に『戦国武将の精神分析』(宝島社新書・共著)『シャーデンフロイデ~他人を引きずり下ろす快感~』(幻冬舎新書)『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館新書)『あの人の心を見抜く脳科学の言葉』(セブン&アイ出版)他多数
WOMe編集部 総合アカウントです。皆様へのお知らせやキャンペーン、ライター募集などの情報を発信していきます。