【#FocusOn】人間が不倫をするのはしょうがない 脳科学者 中野信子さんインタビュー<第二回>

【#FocusOn】人間が不倫をするのはしょうがない 脳科学者 中野信子さんインタビュー<第二回>

『不倫』を執筆した脳科学者 中野信子さん。人間は不倫をする生き物だということを、生物学、脳科学、人類の歴史など様々な角度から考察されています。ここまで言い切られると不倫は悪いことではないような気すらしてしまいます。中野信子さんインタビュー二回目です。


なぜ不倫はひとのこころをざわつかせるのか

前回までの記事はこちら

――関係のない他人の不倫に心がざわつき、その人たちを責めずにはいられないという気持ちが生じるのとは別に、自分が不倫をされた時に相手を懲らしめたい、と思う感情がどうしても沸き上がってきてしまうと思います。ですが、そんな感情をいつまでも持っていたくないとも思います。どうしたら一刻も早くその感情をなくすことができますか?

禁止された感情ほど強く記憶される、という性質が脳にはあります。なので、いやな感情を持ってしまったな、と自覚したら、まずはその感情を禁止することをいったんやめて、自分の中のいやな感情を直視することからはじめましょう。一番やってはいけないことはその感情を相手にぶつけることです。そうすると、禁止して黙っておく以上のダメージが返ってきます。

相手とのコミュニケーションは破綻し、自分にも強い後悔の気持ちが残り、いやな感情を持っていただけの時と比べてその負荷は何倍にも大きく感じられるはずです。壊れてしまった関係そのものも、もう取り返しのつかないことになる場合が多いでしょう。そうなる前に、いやな感情だけをきれいに昇華させるために、まずは自分がどうして悲しいと思うのか、怒っているのか、しずかに見つめるんです。いやな気持を持っている自分が何に反応してしまっているのか、冷静に分析してみるんです。

――マインドフルネスに通じるものがありますね。

そうです。まさにマインドフルネスです。前頭葉にある前頭前野という部分が「今自分がどんなことを感じているのか」という処理をしているのですが、これを“メタ認知”といいます。この部分は30歳でもっとも成熟すると言われています。前頭葉は新しく細胞が生まれてきてくれるので、使えば使うほど、減少の速度を落とすことができます。

――そうなんですね!

泣くのも怒るのもその人の勝手。自分には関係ない

たとえば誰かがあなたに対して「一生懸命あなたのためにやっているのに」「あなたのために良かれと思って」と言ったりして、本質的には特に必要のないことをあたかも犠牲を払っているかのように主張されることがありますが、これは、あくまでその人の勝手にやっているもの。自分の認知はその意思決定にはまったく関与していません。

泣くのも同じです。“泣いているからには原因があって、その原因は自分ではないだれかにある”と思うことがほとんどかもしれませんが、違います。泣いているのはあくまで自分の体に起きている現象でしょう。他人が脳に入り込んできて自分を泣かせようとコントロールしているわけではない。認知というのは自分自身の問題で、本来、完全にその人の自由です。

――うーん。言われてみればそうですが、でも目の前の人に泣かれたら何か自分が悪いことをしたり言ってしまって泣かせてしまった、と感じる人がほとんどだと思います。

私に落ち度はないはずなのですが、たとえば私がテレビに出るだけで泣く人は泣くんですよ。「ちくしょう! あの場には俺がいたはずなのに!」とか(笑)。「私だってあれくらいできる!」などとおっしゃる方もいるでしょう。

――ああ、なるほど。それはその人の問題ですね。

これは、受け止める人の心に起きている現象なんです。行為とは関係があるようでいて、あまり関係がない。それこそ私が息をしているだけで泣く人は泣く。みなさんだって、どこで誰を泣かせているかわからない。どういう状態で誰が泣くのか、ある程度の予測くらいはつくでしょうが、それは誰にも完全にはわからないわけです。でも、それはあなたのせいではない。自分が泣きたいから泣く、他の誰にも関係ありません。不倫も、されたからって自分のせいというわけではない。相手の行為の問題です。その人がしたかったからそうした。ただそれだけの話です。

防ぐこと、相手の行動を完全にコントロールすること自体が、難しい。そんな関係が健全で信頼に満ちたものか、というと、それもやっぱり違うでしょう。不倫を防ぐことができている、と思っている人は、ただ見えないところで好きなようにされているだけだということだって十分あり得る。

ただ、そうだとしてもそれがあなたの落ち度であるということにはならないんです。落ち度がもし仮にあるとするなら、そういう相手を選んだことそのものが、強いて言えば落ち度です。もしあなたの意志でその人を選んだのなら。

でも不倫する遺伝子の持ち主は少なくないのだし、そういう人に当たる確率は高いのです。したがって、特に自分が悪いのではないかなどと自分を責める必要はどこにもない。

――そういう風に考えることで楽になる人はたくさんいると思います。

日本人はコミュニケーションが密すぎる

日本人はどうも人間関係を密にし過ぎるようです。そうした環境では何が起きるか。関係を維持することが優先され、相手に対して自分の思っていることを言えなくなります。それは関係性の中で生き延びるための知恵でもあるわけですが。

――どういうことでしょうか?

人間関係が密になりやすい環境では、言いたいことを言ってしまったら関係性の中から排除されるかもしれない。関係性、集団、つまり日本でいうならば「ムラ」ですが、そこから排除されてしまったら生きていくことが難しい。首尾よく生き延びることができたとしても、配偶者を得ることが困難となり、遺伝子を残していけない。そこで、こうした環境下では、集団を優先し、思っていることを言わない個体が世代を重ねるごとに増えていくのです。ですが、グローバル化がいやおうなしに進んでしまう現代では、関係性より個人の意見を優先したほうが良い場面もある。距離を見極めた上で主張をしなければいけない場面もあるんです。この“距離を見極める”という行為が日本人は苦手ですね。


――確かにそうですね…それに加えて、女性の場合は意見を言うと「女のくせに」とか言われて育ちますよね。また、「女の子がそんな意見を言っちゃいけない」と言われたり。

そうですね。そうやって育ってきて大人になったからって、いきなり夫に自分の意見をきちんと伝えろと言われてもできないですよね。

――それでどんどん我慢して溜め込んである日爆発してしまって、夫からしたら晴天の霹靂…ということになる。どうしたらそうならないようにできますか?

もともと意見を口にするのが難しい要因を備えて生まれてくる上に、環境的にもそれが許されない、というのは大きな障壁ですが、気づいた段階で、意見を小出しにするトレーニングをしていくことです。言いたいことがあったら溜めずに都度、相手を刺激しすぎない形で言語化するようにする。意識してトレーニングすればかならずできるようになります。

パートナー同士や家庭内でも、密であればあるほど「仲が良い」ということだ、という幻想を特に女性の側は抱いてしまいやすいものです。しかし、関係を重視しすぎるあまり、なんということもないことまで口にするのをためらうような窮屈な関係ではお互いに苦痛にもなるでしょう。これは安定的な関係ではなく不安をベースにした結びつきです。相手の不倫が気になって仕方のない人は、相手の一挙手一投足に自分の認知や行動が縛られているのではないか、ということを一度気にしてみたほうがいいかもしれません。

安定的な信頼関係を長期にわたって築くためには、密でありすぎないほうがかえって有利です。むしろ相手を傷つけないように意見を小出しにできる、風通しの良い関係を維持する努力こそが、心安らかに楽しい時間を過ごしていくためには必要な心の作業です。

第三回につづく

――不倫に対する心の動きの仕組み、不倫をされるのは自分のせいではない、など、知れば知るほど納得の中野先生のお話。次回は自分が何を望むのか上手く伝えるための方法、自分の欲望の許容ラインを知ることの大切さ、などのお話です。お楽しみに。

文/和氣恵子 撮影/鈴木志江菜

脳科学者 中野信子さん
脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。

著書に『戦国武将の精神分析』(宝島社新書・共著)『シャーデンフロイデ~他人を引きずり下ろす快感~』(幻冬舎新書)『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館新書)『あの人の心を見抜く脳科学の言葉』(セブン&アイ出版)他多数

不倫 (文春新書)

¥ 896

『不倫』(文春新書) バレたら仕事も地位も家族も金銭も失うとわかっているのに、なぜ人は不倫をやめられないのか?社会が過剰な不倫バッシングに走りがちになるのはなぜなのか? 最新脳科学の知見をもとに、進化の過程で人類が選択した「生存戦略」、「社会的制裁」の謎に迫る!



本サイトに記載する情報には充分に注意を払っておりますが、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、完全性、正確性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動や、判断・決定は、ご自身の責任において行っていただきますようお願い致します。

この記事のライター

WOMe編集部 総合アカウントです。皆様へのお知らせやキャンペーン、ライター募集などの情報を発信していきます。

関連する投稿


ライフシフト・ジャパン 河野純子さんインタビュー “やりたいこと”があるだけ<第一回>【#FocusOn】

ライフシフト・ジャパン 河野純子さんインタビュー “やりたいこと”があるだけ<第一回>【#FocusOn】

ライフシフト・ジャパンが定義する“ライフシフト”とは“人生の主人公として100年ライフを楽しむ”こと。今まさにライフシフトの途中だという河野純子さんに、ご自身が思う働くということ、人生、ライフシフトの法則についてインタビューした第一回です。


“恋愛結婚というパッケージ”が日本の夫婦をおかしくする<最終回>【#FocusOn】

“恋愛結婚というパッケージ”が日本の夫婦をおかしくする<最終回>【#FocusOn】

『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)著者の大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授 田中俊之さん。男性学の第一人者である田中先生からお話をお伺いしてきたインタビュー最終回は現代社会の結婚についてです。


更年期は怖くない 積極的に対策を取り入れて メノポーズカウンセラーセッション!<最終回>

更年期は怖くない 積極的に対策を取り入れて メノポーズカウンセラーセッション!<最終回>

更年期以降、約50年は続くと言われる人生100年時代。ならば、健康に豊かにイキイキと生きたいものです。そのためには更年期の過ごし方がとても大切だそう。女性の健康と更年期問題に寄り添うメノポーズカウンセラーに女性が人生100年時代を幸せに生きるためのヒントを教えてもらいました。


日本の育児休業の取得率はわずか6.16%!社会問題を個人の問題に転換する恐ろしさ<第三回>【#FocusOn】

日本の育児休業の取得率はわずか6.16%!社会問題を個人の問題に転換する恐ろしさ<第三回>【#FocusOn】

日本の育児休業の取得率はわずか6.16%!『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)著者の大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授 田中俊之さん。男性学の先駆者である田中先生に男性の育児休業率の低さなどについてお話を伺いました。インタビュー第三回目です。


セックスレス解消法大全【WOMe総力特集】

セックスレス解消法大全【WOMe総力特集】

セックスレスの原因は?解消するにはどうしたらいい?/セックスレス…カップルの数だけセックスがあり、カップルの数だけレス問題が付きまといます。日本性科学会は特別な事情が無いのに一か月以上セックスがないカップルをセックスレスと定義しています。そして、お互いがセックスを望まないのであればセックスレスとは定義しません。つまり、どちらかがセックスを望んでいて特別な事情が無いのにも関わらずセックスが無い場合を“セックスレス”というわけです。


オススメ情報

dummy

人生100年時代 40代からの転職術

業界最多の非公開求人からご希望に沿った求人をご紹介、あなたの転職を成功に導きます。


リクルートエージェント


dummy

母であり妻であり、そして“働く女性”であり。働き続ける女性を応援!

業界最多の非公開求人からご希望に沿った求人をご紹介、あなたの転職を成功に導きます。


リクナビNEXT


最新の投稿


「立ち呑み 三ぶん」銘酒が540円から!ミッドタウン日比谷で創作割烹料理に舌鼓【中沢文子の女・酒場巡礼#11】

「立ち呑み 三ぶん」銘酒が540円から!ミッドタウン日比谷で創作割烹料理に舌鼓【中沢文子の女・酒場巡礼#11】

ひとり飲み情報♪ 女性がひとりでも安心して入ることができる居酒屋を酒場ライターの中沢文子さんに教えていただく人気連載。11回目は東京ミッドタウン日比谷3Fにある「立ち呑み 三ぶん」。東京ミッドタウン日比谷に立ち飲み屋さんが入っているなんて驚きですが、中沢さん曰く「東京ミッドタウン日比谷は昼のみの聖地」なんだそうです!


ライフシフト・ジャパン 河野純子さんインタビュー “やりたいこと”があるだけ<第一回>【#FocusOn】

ライフシフト・ジャパン 河野純子さんインタビュー “やりたいこと”があるだけ<第一回>【#FocusOn】

ライフシフト・ジャパンが定義する“ライフシフト”とは“人生の主人公として100年ライフを楽しむ”こと。今まさにライフシフトの途中だという河野純子さんに、ご自身が思う働くということ、人生、ライフシフトの法則についてインタビューした第一回です。


2019年7月 後半編(7/15~7/31)の運気【雨宮なおみの12星座占い】

2019年7月 後半編(7/15~7/31)の運気【雨宮なおみの12星座占い】

ライターとして長年占い原稿を執筆するうちに独学で占術を学び、頼まれもしないのに周囲を占っていたら「当たる!」と評判になった雨宮なおみさん。6月後半の運勢のポイントを要チェックです。


宮本真知のタロット占い【7月15日(月)~7月21日(日)の運気】

宮本真知のタロット占い【7月15日(月)~7月21日(日)の運気】

あなたの心に寄り添いながらそっと背中を押してくれると評判のタロット占い師、宮本真知がお届けする週間タロット占い。直観を信じて…今週のあなたの運気は?


いい加減、自分で決めたい私の人生!【院内集会】取材レポート

いい加減、自分で決めたい私の人生!【院内集会】取材レポート

福田和子さん、山本和奈さんに注目!「女性活躍」が国の政策として掲げられ、働く女性は増加し、男性が育児休業を取ろうという動きがどんどん活発になっている日本。ですが、世界から見れば、ジェンダーギャップ指数が110位など、まだまだ遅れているのが現状です。そんな中ふたりの日本人女性が、世界最大級のジェンダー平等や女性の健康と権利に関する国際会議「ウーマン・デリバー(Women Deliver)2019」に参加しました。そこで得た最も新しい世界の情報や報告も交えつつ、女性のエンパワーメントやセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関して議論する院内集会が開催されたので取材してきました。


友だち追加






人気記事ランキング


>>総合人気ランキング
WOMeアプリダウンロードバナーPC_news_フッター