リプロダクティブヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康・権利)を誰しもが持っている
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やまがたさん:そうですね…そもそもなのですが、なぜ欲しいのか? 子どもがいる方が幸せな気がするから? 結婚したら子どもを持つものだから? 友人たちには子どもがいるから? 親が孫の顔を見せてというから? もしかしたら主体的に妊娠を望んでいるわけではないかもしれない、という可能性について考えた方が良いと思います。リプロダクティブヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康・権利)というものがあって、自分の身体は自分のもの、自分自身で産むか産まないか決める権利というものが守られているんです。そこをまず考えて欲しいなあと思います。そして産まないから何かが欠けているわけじゃないんです。それから“子どもを授かることがすごいこと”、という風潮も見直していかなければいけないと思います。
―どういうことでしょうか?
やまがたさん:子どもを授かることは奇跡なんです。素晴らしいことです。それは間違いありません。でも“すごいこと”というとどうなのか? 産んでないとすごくない、ダメなんだ、となっていしまいますよね。
―なるほど。
大貫さん:私は今、子どもはいないのですが、そうすると妊婦さんに寄り添っていても「産んでないからわかんないでしょ」って言われることがあります。年配の助産師さんに「産んでないからね」と言われることもあります。
やまがたさん:そうね、そういうことをいう人もいるね。
―大貫さんのような助産師さんに寄り添ってもらったら私はとても嬉しいです。
大貫さん:ありがとうございます! 出産や子育ての経験があることと、専門知識があることは全く異なるのに、助産師のなかにも生んだ経験があるほうが偉いといった価値観はありますよね。
やまがたさん:産んでるからって偉いわけじゃないよね。産んだからって自動的に人間レベルがアップするわけじゃない。何にも変わらない。結婚の次のステップが妊娠出産という考えも改めた方がいいと思います。その上で、子どもが欲しいのかどうか考える。
―なるほど。
妊娠することは神様の領域。コントロールなんてできない
やまがたさん:人生のなかでどんな経験をしたいのか、その経験のなかで何を学び感じたいのか、ということを考えることがとても大切だと思います。子どもを産むことを自分の人生の穴埋めのように考えてはいないか? そもそも妊娠して出産したあと、子育ては20年近く続くんです。本当に子育てしたいのかどうか? 産むというのは命がけの行為です。苦しい妊活をして命がけの出産をしてその後20年近い子育てをしなければいけません。
―本当にそうですね…。
やまがたさん:私も日々感じていますが、育児って本当に大変です。一人の人間に責任をもつ覚悟がなければいけません。こういうと逆に子どもを持つことが怖いと感じる人もいらっしゃるかもしれませんが、そういうことを言いたいわけではないんです。「何が何でも…」と日々苦しみの中で妊活をしている女性たちに、本当にそれが自分が望んでいる人生なのか? ということを立ち止まって考えてもらうきっかけにして欲しいなあって思うんです。
大貫さん:そうですね。子どもっていずれは巣立っていく。人生100年時代の今、夫婦ふたりでいる時間の方がずっと長いんですよね。良いパートナーシップを築いておくことが人生を豊かにする上で欠かせなくて、その上で子どもを持つ・持たないという選択をパートナーと話し合えるといいなあと思いますね。
やまがたさん:メディアもね、対立させることが多いんですよね。子あり・子なし、とか、専業主婦・働くママとか、そういうの本当にどうでもいいのに。対立させたら盛り上がるからやるんでしょうけど、どうなのかなぁと思います。
―分かります。WOMe編集部としては社会的役割は置いておいて“ひとりの女性として“記事を楽しんで欲しいと思っています。今、アラフォー女性を含め現代を生きる女性は色々なものを背負いすぎていてすべてを完璧にしようとして自分で自分を苦しめていますよね。
やまがたさん:本当にね。「大丈夫だよ」って言ってくれる人がいないんですよね。「もっと頑張れもっと頑張れ」と言われて育ってきて、今も「頑張らない自分はダメな人間なんじゃないか」って思ってる。そうじゃない「あなたはあなたで大丈夫」。そのままでいいんです。今まで頑張れば結果が出ると教えられてきて、実際、結果を出してきた人たちも多いのだと思います。でも子どもを授かるかどうかはそうではありません。妊娠するかしないかは神様の領域です。コントロールなんかできないんです。
世間の言う“良い子”になんて育てなくていい
―妊活に苦しんでいる女性も多いですが、子育てに苦しんでいる女性も多いと思います。産んでも産まなくても大変ですね女性は。
大貫さん:生きているだけで褒められたいですよね(笑) いい子育てをしようと頑張り過ぎなんですよね。病院に来るお母さんたちを見ていると、とてもしんどそうで親御さん自身のケアが必要なのではないかと感じることも多いです。お母さん自身の元気をもっと溜めて欲しいなあって思います。十分頑張っているんですもん。
やまがたさん:私この前ふとね「私、よくやったかも!」って思ったんです。産むのみならず思春期のここまで育ててきたんだな~って感動しました。私と全然違う人格の人間一人をここまで育てたんだなあ、子どもと一緒にいろんな成長したな私って(笑)だって、私は絶対できない逆上がりとか子どもはできちゃうんですよ。そんな全く違う人を一人育てた! 一緒に育つから良いんですよ。子どもの可能性は無限大。無理に世間のいう“良い子”になんて育てようとしなくて良いんですよ。子どももみんなそのまま、ありのままで素晴らしい存在なんですから。
日本では出産すると「頑張ったね」と言われますよね。そうするとやっぱり“頑張る=褒められる”と思ってしまう。でもね、ニュージーランドではね「あなたはなんて素晴らしい女性なんだ!」と言ってその人まるごと褒めるんですよ。素晴らしくないですか? この声かけの差で随分と自尊感情が変わってくると思います。
―本当にその通りだと思います。最後におふたりに今後どういう活動をしたいか、どんな日本社会になって欲しいかお聞かせください。
大貫さん:多様なセクシャリティを認め合い、一人一人を優劣つけることなく、当たり前に同じ人間として感じあえる世の中になって欲しいと思います。人を傷つけない意識、傷つけられてはいけないという意識をみんなが持って欲しいです。あとは性の話を世間話をするようにフラットにできる社会になって欲しいですね。それから、性教育の塾をやりたいなって思ってるんです。
―わぁ! いいですねー!
大貫さん:幼少期から大人まで継続的に性教育を受けることのできる塾です。
―スウェーデンのユースクリニックのようなものですね。
大貫さん:そうです! 先日、#なんでないを立ち上げた福田和子さんとこの話で盛り上がったんですが、同じビルで福田さんはユースクリニックをやって、私は性教育の塾をして。他にも行き場のない子が放課後ふらっと立ち寄れるような場所をつくったりしたいなあって。
―素晴らしいですね! 本当に必要なものだと思います。やまがたさんはいかがですか?
やまがたさん:私はユネスコのガイダンスに沿った性教育がもっと浸透して欲しいと思います。人権としての性教育ですね。そして、日々歯磨きをするのと同じレベル感でデリケートゾーンのケアをするものだと知って欲しいです。
病院に行くことをためらう方が本当に多いんですが、調子が悪くなったらすぐに婦人科に行って欲しいと思います。余談ですが、クラミジアに感染している日本人は年々増えています。クラミジアはほとんど症状が出ないので気付きにくい。定期的に検診を受けたり病院に行く習慣がないので発見されないんです。そしてどんどん感染してしまう。クラミジアが原因で不妊になってしまったり子宮外妊娠をしてしまう可能性もあるんです。なのでぜひホームドクターをもって定期的に検診を受けるクセを付けて欲しいなあと思います。性教育は家庭から始まります。まずは大人が知識を持つことが本当に大切だと思います。
―そう思います。勉強になる楽しいお話をありがとうございました!
文/和氣恵子、撮影/鈴木志江菜
(写真左)助産師・看護師 大貫詩織さん
助産師/思春期保健相談士 神奈川県立保健福祉大学 看護学科卒業。 総合病院産婦人科にて勤務ののち、現在は精神科児童思春期病棟に勤務し入院患者への性教育プログラム立ち上げに従事。 また学校での性教育に関する出張講座や、若者向けの性と命の語り場イベント『イノチカタルサロン』の主催も務める。
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(写真右)助産師・バースセラピストやまがたてるえさん
助産師 、看護師、バースセラピスト、JADP上級心理カウンセラー、NPO法人ちぇぶら 更年期ライフデザインアドバイザー
臨床経験をした後、妊娠出産を経験。産後に地域の育児支援活動にかかわりながら、BLOGでのライフワークを発信。BLOGをきっかけに5冊の本を出版。等身大の母から伝える「いのち こころ からだ」をテーマとした講演、保護者向け講演、お話し会や、雑誌などメディアにも取り上げられている。「心が軽くなる」育児のアドバイスが好評。子育て学講座講師、産前産後ケアに携わり、セラピストとしての個別カウンセリングなども行っている。
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