やさしい気持ちになりたい夜 心がじんわりあたたまる絵本を【心をうるおす大人の絵本 # 05】

やさしい気持ちになりたい夜 心がじんわりあたたまる絵本を【心をうるおす大人の絵本 # 05】

【絵本コーディネーター・東條知美の大人の絵本シリーズ】辛い時悲しい時困った時、大人になった今だからこそ読みたい心をうるおす一冊を紹介していただきます。連載第五回目はやさしい気持ちになりたい夜に読みたい心がじんわりあたたまる絵本です。


寒さを侮るなかれ!“心の大寒波”見過ごさないで

〈暖冬傾向を覆す歴史的寒波が襲来〉・・・少し前に見た天気予報のサイトに、こんな見出しがつけられていました。ここ最近、本当に寒い日が続きましたね。
東京に雪が少し降ったくらいで騒いでは申し訳ないくらいの、世界的な大寒波。映画「デイ・アフター・トゥモロー」を思わせる、ミシガン湖(アメリカ)のバリバリ凍る映像や、国内では摂氏マイナス30度の北海道から「なんでも一瞬で凍らせる」テレビレポート…濡れたジーンズ、髪、シャボン玉、生卵…いやそんなものまで凍らせなくていいから、もうわかったから…と心でつっこみつつ、「最大級の寒さ対策が必要です!」と繰り返すレポーターの言葉に、雪国育ちの私としては大いに頷いていたのでした。

そう、寒さを なめてはいけないのです。

低体温症、凍傷、免疫低下…油断すると本当にこわいのです。この身を守るために私たちは重ね着したり、部屋を暖かく保ったり、熱々の鍋を囲んだり…厳しい冬を乗り切るために様々な工夫を重ねます。

では、“心”はどうでしょうか?

「たかが心」「気のせいじゃない?」と思われてしまうことが多いのではないかしら。なめてはいけません。低体温症、凍傷、免疫低下…油断して放っておくと、その心、麻痺しちゃいますよ!

わたしたちの人生は、陽気で明るい春の季節ばかりではありません。外見では笑顔を装っていても、その心は凍てつくように寒く、冬の日本海のように荒れ狂っている…そんな季節が一度や二度は…いや、世知辛い世の中です。もしかしたら何度も経験されていませんか? 「心の大寒波」
を放ってはおけません。

そこで寒~い日々を乗り切るための絵本、やさしくなれる絵本、心がじんわりあたたまる絵本をご紹介しますね。

『じゃむじゃむどんくまさん』(柿本幸造 絵/蔵冨千鶴子 文 至光社)

表紙に描かれた真っ赤なりんごを眺めているだけで、温かなイメージが伝わってきます。

お話は、木の下で昼寝を楽しんでいた「どんくまさん」の頭にりんごが落ちてくる場面から始まります。鈴なりのりんごに気がついたどんくまさんは、なんにも考えずに、木を揺さぶってりんごを全部落としてしまいます。(だって楽しいから)
そこへやって来たのはおまわりさん。どんくまさんは叱られますが、偶然通りかかったりんごの木の持ち主のおじさんは、「ちょうど収穫しようと思っていたところ」と喜んでくれます。おじさんの家はジャム屋さんでした。

くっつ くっつ 
もや もや
ふわーん ふわん

一晩中ジャム作りを手伝った気のいいどんくまさんは、翌日、これを町へ売りに行く仕事も引き受けます。たくさんの人が集まってきて、大繁盛! 満足顔でおじさんの所へ帰ります。

ただいまっ
じゃむは ぜーんぶ うれたよ

ほう ぜんぶ うれたって
そりゃあ すごい
それで おかねは?

どんくまさん、お金は? 売れた分のお金、どうしました?…えっ、もらうの忘れちゃったって!?
…というわけで、おじさんに大激怒されたどんくまさん。りんごの木の下で涙を流して落ち込みます。どうして僕はいつも失敗しちゃうんだろう。自己嫌悪です。最悪です。

でもその時、遠くからどんくまさんを呼ぶ声が聞こえて・・・。さて、このお話はどんな結末を迎えると思いますか?

のんびり大らかで不器用な主人公「どんくまさん」の物語、シリーズ一作目は1964年の東京オリンピックの頃、(画家の故・柿本幸造氏いわく)「日本中が忙しがっているような時代に」誕生しました。

時を経て2019年。二回目の東京オリンピックも目の前ですね。世の中はますますせわしなく、ますます成果を求められ、どんくまさんみたいにのんびりとした、ただ気のいいキャラクターの人は(淘汰されてしまうのか?)なかなかみかけなくなりました。

純粋で、無垢。童心そのもののどんくまさんは、失敗しては落ち込むことを繰り返します。
でもね、大丈夫! どんな時でも誰にでも、とびきり優しいどんくまさんは、みんなからもちゃんと優しくしてもらえるのです。「ばか ばか ばかあ」一度はあんなに怒った人も、「さっきは おこって ごめん」って言ってくれるんです。ああ、なんて心あたたまる世界でしょう。

そう、こんな世知辛い世の中だからこそ、今こそ皆さんに呼びかけたい。ギスギスしないで。仲直りして。もっと人を信じて!

優しい人は、ただそこにいるだけで人の心をじんわりとあたためてくれます。
私もそんな大人でありたいもの。「いつも心にどんくまさんを。」呪文のように呟きます。

さて、どんくまさんが大きなクマの話なら、次のお話はちんまり可愛い「くまくまちゃん」です。

『くまくまちゃん』(高橋和枝 作 ポプラ社)

個人的な話…というか、もはや癖? パブロフの犬? みたいなことになっているのかもしれませんが、私は高橋和枝(作)の絵本を開くと、胸がきゅんとせつなくなっていつも泣いてしまうのです。
この手のひらサイズの小さな絵本『くまくまちゃん』でも、やっぱりそうでした。

ぼくは時々考える。今頃、くまくまちゃんは何をしているかな。

おそらく ……

「ぼく」は想像します。くまくまちゃんが、あんなことをしたり、こんなことをしている姿を。
裏の畑で採れた野菜でサラダを作るくまくまちゃん、コーヒーのミルクの注ぎ方をまじめに研究するくまくまちゃん、寝転んで雨の音を聞くくまくまちゃん・・・・・

ただそれだけ。ひとりで気ままに暮らすくまくまちゃんを、「ぼく」は静かに想います。
愛おしさにあふれた「ぼく」の目を、読者であるわたしは思い浮かべます。

遠い昔大切なあの人にしたためた、出されなかった手紙のことを、ついでに思い出したりもします。

「今頃、何をしているかな。」

もしかしたら今この瞬間に、あなたの面影が、どこかの誰かの心をあたためているのかもしれない。そう考えると、胸にあたたかな灯がともるような気がしませんか。

くまくまちゃんが元気だと、ぼくは嬉しい。

わたしも。

次の絵本の帯にはこう書かれていました。〈つかれたら ちょっと やすめば げんきになるよ〉
心に寒さを抱えていたら…疲れていたら…そう、休むのがいちばんですよね。

さあ、どこで休みましょうか?

『だんろのまえで』(鈴木まもる 作 教育画劇)

雪道で迷って途方に暮れる「ぼく」。辿りついたのは大きな木。その木にはドアがついていて、奥の方から「こっちにおいで」と声がします。

ドアを開け奥へ進むと、パチパチと燃える暖炉があります。暖炉の前に座るうさぎが、「ぼく」に「あたたまりなよ」とすすめてくれます。暖炉の前で、凍えていた「ぼく」の体はすっかり温められていきます。うさぎは言います。

「つかれたら やすめばいいんだ。むりしないで じっとしていれば げんきになるさ」

この絵本は、“道に迷ったことのある大人”にこそ響く作品。
「迷う」、「声に耳を傾ける」、「休む」、「優しさにふれる」、「好きになる」、「回復する」、そして・・・?

道に迷って途方に暮れていた「ぼく」が仲間の存在に気づき、回復していく…絵本のストーリーは、私たちの人生をあらわしています。

絵本に描かれる、ぼんやりと火を見つめる「ぼく」とうさぎ。火には絶大なる癒し効果があるといわれますが、彼らが無心に火をみつめる目が、とても印象的です。

「心の大寒波」がきたら、どうぞ無理をしないで。あなたの暖炉を探してあたたかくして。ひとりきりじゃないことをイメージして。

絵本は、私たちにいつも寄り添ってくれます。心が凍傷で麻痺してしまう前に、ぜひ開いてみてください。

優しくなりたいあなたに、あたたまりたいあなたに、冬のあなたに。

絵本コーディネーター 東條 知美

==========

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絵本コーディネーター 東條 知美

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子どもから高齢者まですべての層に向け“毎日がちょっと豊かになる絵本”をコーディネート。講演・テレビ出演等、活躍の場を広げている。



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