
ジェーン・スーさんインタビュー 第一回はこちら
作詞家でコラムニスト、ラジオパーソナリティでもあるジェーン・スーさんの著書『私がオバさんになったよ』が3月14日(木)に発売になりました。
光浦靖子さん、山内マリコさん、中野信子さん、田中俊之さん、海野なつみさん、宇多丸さん、酒井順子さん、能町みね子さん、8名との対談が納められています。
本についてスーさんにインタビューした第二回目は、脳科学者の中野信子さん、男性学を研究する田中俊之さん、漫画家の海野つなみさんとの対談についてお伺いしました。
中野信子さん対談:人は“気持ち”のために生きているんじゃない
――どの方との対談も読みどころが満載で、濃くて、置いていかれないように必死でしたが、特に脳科学者の中野信子さんとの対談はもう圧巻でした。対談の中で、中野さんと頻繁にLINEのやり取りをしていると仰っていましたが、今回お話されているような内容もLINEでしているんでしょうか?

そうですね。しょっちゅうやり取りをしている中野さんと改めて対談したいなと思ったのは、LINEをしている時に「この話をここでお終いにしちゃうのってもったいなくない?」って話が出て。コピペしてどこかで伝えたら面白いって言ってくれる人がいるんじゃないかって話になって(笑)
――とても面白かったです! ただ…難しかったです(笑)
ああいう話って私にとっても難しいんですけど、その分、理解できたときの快感が大きい。パッとお金で買えるものじゃない。自分の頭で考えないといけない。こういうことが中年期の私には楽しいんですよね。
――中年期だから楽しいんですかね?
頭の良い人はもっと昔から楽しめているんだと思うんですけど(笑) この歳になると夜遊びもそんなにできないし体もそんなに動かなくなるので、頭だけ動かしてこういう話をしているのは娯楽として非常に贅沢だなと。
例えば、対談の中で出てきた「心という機能は脳のなかにはどこにもない」というお話。心っていって私たちは心臓のあたりをさしてるけど、そこに心なんてものは実態としてないし、じゃあこの感情はどこにあるの? 脳なの? じゃあ脳と気持ちって一緒なの? と。でもそれはなんだか違う気がする…っていう話を永遠する贅沢。
――“意識は体が動いた時にでる産廃だ”っていうお話が理解できた時は「うわー!」ってなりました(笑)
そうそう、あれはね本当に面白い! 体をベストコンディションに保つために生きているわけで、気持ちのために生きているんじゃないんですよね。でも間違えがちじゃないですか。
30代頭に自分のバランスが悪いなって感じたことがあったんです。体が脳の入れ物みたいになっちゃって。脳が欲求することを満たすために体を動かすようになっていたんですね。例えば「観たいものがあるからあっちに行く」「あれが食べたいからあそこに行く」というように。脳が司令塔みたいになって、体を動かしている。「これはバランスが悪いぞ」って思いました。体を動かすために頭を使ってなかったから。
じゃあ体を満足に動かすために脳を使おうとすると、ぜんっぜんできないんですよ。その時はボクシングを習ってたんですけど、脳がどう指令を出せば体が思うように動くのかがわからなかった。「これは両方の通りを良くしておかなくちゃダメだ」と思いました。体を主にする時間を持つ必要を感じました。今回、中野さんと話をして、「生まれた時点ですでに80点。そこからの人生はボーナスステージのようなもの。ならば、できるだけ身体機能を傷つけず生きることが使命なのかもしれない。だとすると、身体が機能した結果に生まれてくる感情なんて言う産廃みたいなものに左右されて、体のパフォーマンスを悪くするのは愚の骨頂じゃん!」と思いましたね。
――中野さんが「恋愛みたいなオプションのために命を落とさないで」って仰ってたのが、すごい言葉だなあと思いました。
主客が逆転すると、そうなっちゃうんですよね。そういう時って感情が過多になって心が中心になってる。だからバランスが崩れる。ありがたいことに、私の知りたいことについては全部、中野さんがヒントを持ってるんですよ。ポンポン出てくる。
――中野さんが「結論は自分で考えるように本も書いている」って仰ってましたね。
そうです。わかんないことが、「わかんない! わかんない!」から「わかった!」となった時の楽しさを知って欲しいと思います。
――対談の中でスーさんが「“よく生きたい”と思っているけど、なにが“よく生きる”ことになるのかわからない」と仰っていましたが今はどうですか?
“よく生きたい”という理想を追い求める気持ちはありますよ。ただ8人の方との対談を一冊の本にまとめてみて改めて、ロールモデルが明確にないのがこれからの時代なんだろうな、と思いました。
少し前までは、一軒家を買えばいいとか、子どもが何人いればいいとか、そういう決まったゴールがありましたよね。でも、これから先は違うような気がします。なので“よく生きたい”と思ってもそれがパキッとわかんないのは当然だなと。“その都度、自分で考えて自分で決めるしかない”と、今は思ってます。
――スーさんの思う“よく生きたい”っていうのはどういう意味なんでしょうか?
“よく生きる”というのは…“正しく生きる”ではなくて、“後ろめたくなく生きる”ってことかなあ。“自分に後ろめたくなく生きる”。他人や世間にではなくて。“自分に後ろめたい生き方はしたくない”ってことですね。
「自分に過剰な期待をしたり、うぬぼれたり、極端に自己評価を低くしたりしないで、利己的になりすぎず、ちょうどいい塩梅で生きる」とはどういうことか。いまはそれを見極めている感じですね。
[おすすめ]【#FocusOn】人間は浮気するもの 『不倫』著者:脳科学者 中野信子さんインタビュー<第一回>
田中俊之さん対談:恋愛と結婚は別。がっぷり四つに組む共同体として考えたら選ぶ相手は変わってくる
私たちが子どもの頃には耳にしなかった「男性学」というものを田中さんは研究されています。ここ数年で耳にする頻度はぐっと上がりました。私は“生きづらさ”は女性だけの問題ではない、と思っていて、そのことを誰かと話したいと思った時には田中さんを呼ぶ(笑)。そうすると、色々教えてくれるんです。
戦い方は人それぞれなので、誰かに自論を強制したり、たったひとつの正解を見つけるつもりはありません。ただ私は「向こうは向こうで何かしら負荷がかかっているから、お互いがそれぞれの問題に取り組んでいかない限り、どちらかの問題だけが解決することはない」という考えなんです。
――スーさんが良く仰っている、「男性も女性も“せーのっ”で変わらないと変わらないよね」っていうお話がいつも本当にそうだなあって思っています。
女性の問題は男性の問題と表裏一体だと思います。
――田中さんが「恋愛と結婚は別」ってサラリと仰っているのが印象的でした(笑) 男性が普通にああいうことを言うのがビックリ! と(笑)
ね(笑) ひと昔前だったらあんなことを言ったら「酷い! 外で浮気するんでしょ」となったと思うんですが、そうじゃなくて、がっぷり四つに組む共同体となると選ぶ相手は変わってくるんじゃないの? っていう誠実なお話ですよね。
――しかしこれも「私がオバさんになったよ」世代だと「なるほど!」っとなりますが、20代とかだとまだ「ん!?」ってなるかもしれませんね(笑)
そうですね。やっぱり『私がオバさんになったよ』と聞いてザワッと来る人が読んだらいいんでしょうね(笑)
海野つなみさん対談:ものすごく普通な人が“天才”であるという救い

海野さんが描かれた『逃げるは恥だが役に立つ』というマンガがありますが、100年くらい経ったら「あれが大きなターニングポイントだった」と言われるんじゃないかと思っています。女性が抱えるイシューをマンガとしてあれだけ鮮やかに日常から切り出した人はいないと思うんです。この時代に生まれて良かったと思いました。この物語がオンタイムで進行しているタイミングに生きてて良かったなあと。
で、どんな天才が描いたマンガかと思ったら、普通の生活を送っていらっしゃる私と同世代の女性なんですよね。私が思う“天才”って破天荒だったり華やかだったり鬼才と呼ばれるような人だったり、人と同じような生活は一切できない、一度描きだしたら止まらない! といったイメージがありました。ですが、海野さんはそうではない。そこが私、嬉しくてしょうがないんです。
何かを犠牲にしないと最高のものは手に入らないとか、悪魔に魂を売らないといけないとか、そういうことじゃないんですよね。酒井順子さんも仰ってましたが、常に120点を求めるんじゃなくて、70点80点を常にとっていくことが大切だと。上にはいくらいってもいいけど下を下げないっていうお話がありましたが、同世代の海野さんと少し上の世代の酒井さんが同じことを仰っていて、同業というとおこがましいんですが、モノを書いて載せてもらうという仕事をしている身としては、「よしよし私これでいいんだ」って思えました。
――海野さんは本当に普通でいらっしゃって…でもあれだけ普通って普通じゃないとも思ったり。
そうですよね。海野さんはドラマツルギー(※)をひねってひねっていたら王道に着地したと仰ってましたが、ああいうプロットを思いつく才能、それを飽きさせないよう展開する力が、天から授けられたものだとか、非常に厳しい環境で生まれ育ったからこその賜物ではない、っていうのはおおよその人間にとって非常に救いだと思うんです。そういうのなくても別に良いんだな、関係ないんだなって(笑)
※ドラマツルギー:戯曲の創作や構成についての技法。作劇法。戯曲作法。(デジタル大辞泉の解説より)
――思います。特別な経験をしていないとすごいものは作れないんじゃないか、とか思いがちですよね。
そう。なにか特別なことを体験してないとって多くの人は思いがちですけど、そんなことはないという。海野さんは本当に飄々としていらっしゃいます。
――中野信子さん、田中俊之さん、海野つなみさんとのお話もスーさんが感じる番外編、のような思いがとても面白く、スーさんだからこそああいった対談になったんだな、と改めて感じました。いよいよ最終回は「ライムスター」のラッパー宇多丸さん、エッセイストの酒井順子さん、文筆業で自称漫画家の能町みね子さんとの対談のお話です。
最終回はこちらから
文/和氣 恵子、撮影/鈴木 志江菜
■ジェーン・スーさん プロフィール
ジェーン・スー
1973年、東京生まれの日本人。コラムニスト、ラジオパーソナリティ。
現在、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMCを務める。
『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で第31回講談社エッセイ賞を受賞。
著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』、
『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』、『生きるとか死ぬとか父親とか』などがある。
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