
世田谷でBe born助産院を開業している、たつのゆりこさん。助産師に加え、鍼灸師の資格ももち、東洋医学的なアプローチもとりいれて長年、妊娠・出産に寄り添ってきました。最近では更年期世代の女性の健康相談も膣ケアを兼ねてされることが増えているそうです。
そんな中で気づいた現代女性の妊娠と、そして膣の問題についてお話を伺いました。第一回です。
助産院で出産できる人が減っている
――最初から単刀直入にお聞きしますが、現代女性の膣の状態は昔の女性と比べて変わってきていると思いますか?

変わってきていると思います。人工授精をして出産される方もいらっしゃいますし、そもそもセックスが充分にできない状況の方が多いですよね。助産院にいらっしゃる方はみなさん「自然に産みたい」と仰います。“自然”という言葉に“優しくて癒し”のイメージを持っていらっしゃるようなのですが、残念ながら、現代では自然に産むということは、大変な努力が必要です。なので、自力で産める身体をつくっていただかないと助産院での出産はできません。私はこの人の体力なら助産院でも大丈夫だろうと思える方しかお受けしていません。そうでない方は病院での出産をお勧めいたします。
――大丈夫かどうかというのはどこを診るんですか?
既往歴、妊娠歴、年齢等も含めた全体ですね。ご本人のやる気もですが(笑) 身体とメンタル面のバランスも判断材料になります。それから私は東洋医学的な観点からもみています。内臓が丈夫かどうか、良い睡眠がとれているか、排便が自力で自然にできているか・・・、あとは長年の経験からくる勘もあります。そのために妊婦健診は必要ですね。出産に立ち会うパートナーとの関係も確認します。助産院での出産を受け止めてもらえる関係性なのかどうか。それから出産は季節や時間にも影響を受けるので、季節に影響を受けやすい傾向はないか等も考慮しています。
「妊娠は人工授精だったから、せめてお産は自然にやりたい」と、思われる方もいますが、自然界のリズムを意識した生活をしていない人に自然出産は難しいことが多いです。みなさん忙しくしていますから、寝る時間が遅かったり、生活が乱れている方が多い。そういう妊婦の体にとってストレスのかかる生活をしている方は、助産院で産みたいという希望をもっていらっしゃっても、実際に助産院では対応できず、病院で出産することになってしまう方が目立ちます。妊娠を期に生活を見直してもらって、産み応えのある気持ちの良いお産を経験してほしいですね。
現代女性の膣は凝っている?
――現代女性の膣はどんな風になっているのでしょうか?
なんというか…膣の中が凝っているという表現がいいのかな…。クライアントさんもそうおっしゃるので、本来、膣ってやわらかくてふわふわしているはずなんですが、部分的に硬くなっている方が多いです。膣は薄い筋肉が重なり合っていますし、循環が悪いと凝りやすくなるのだと思います。肩こりと比例しています。実際に肩が凝っている人は膣も凝っている印象があります。でも本人は触れられないと自覚はないようです。日本人女性は自分で膣を見たり触ったりすることが世界に比べて極端に少ないようです。
ですが膣が凝っていると生活の質が下がります。骨盤内の循環も悪いということですから。全身が疲れやすかったり、腰痛が慢性化していたり、浮腫みやすかったり、膣の中がすれる感覚のなんとも言えない痛みがある場合もあります。病院でお医者さんに「膣が痛い」と相談しても「どこも悪くはないので、ゼリーでも塗っておいてください」と言われる事が多いようです。そして、内臓下垂(内蔵が下がること)が加わると、骨盤底筋群全体にも負担がかかります。訴えの程度が高い方ほど、元々消化器も弱い方が多い印象があります。
――そうなんですか…。
腸と子宮は近いですから、血流が悪くお腹が硬いと膣内も当然血流が悪くなるわけですから、凝っていくるのでしょう。膣の状態が悪い方は、お腹も冷えて、硬い方がとても多いです。そういう場合、先ずは腸からやわらかくしないといけません。腸をやわらかくするのに大切なのは食事の仕方と睡眠の質を見直すことです。まずは基本的な生活を正すことが大切なんです。それから感情のコントロール。つまりストレスを受けても解消する術を持つことです。脳と腸、腸と子宮、そして子宮と脳は繋がっています。ストレスで自律神経に影響がでると、消化器の動きが悪くなります。そうすると子宮の機能にも影響します。セクシャリティのエネルギーの元は下腹部にあるんです。解剖学ではみられない、エネルギーというものが存在しているんです。
心と膣の関係
――お産目的だけでなく、更年期などの不調を抱えた女性たちがたつのさんのところにいらっしゃると聞きました。そういう方々にはどんなセラピーをされるんでしょうか?

まずは身体を触りながら、お話を聞きます。皆さんご自身のなかに回復する力をもっていらっしゃいますので、私はあくまで回復する力を引き出すお手伝いをするというスタンスです。
婦人科系の不調は自律神経や女性ホルモンの影響が強いので、ちゃんと寄り添ってケアしてあげれば回復できます。女性の性のエネルギーはすごいですよ。私は自然出産に立ち会う助産師なので、その強さをお産でたくさんみてきました。私が「自然分娩は難しいかもな」と思う方でも本人の中心軸が通っていると奇跡的に自然に産めることが多々あります。
自分のことを一番知っているのは自分自身なんです。医療者は一部しか見ていませんから、私は本来の自分に気がつくための過程にお供しているだけです。それに助産師という資格で、ましてや自然療法でケアできる範囲は限られていますから、いろんな職種のネットワークは必要です。漢方医や整体師など必要な専門家に繋ぐこともよくあります。私自身、西洋医学も東洋医学も含めて総合的に判断できなければいけないと思っています。何故ならば、膣の問題で相談にいらっしゃっても、奥に重大な病気を抱えている場合があります。実際、精密検査をお勧めしたところ、癌が発見された方もいらっしゃいました。
――忙しいと自分の心や身体に向き合うことは難しいですよね。心や身体の声がきこえていないんじゃないでしょうか。
そうですね。現代女性はいろんな意味で心と体の感覚を鈍感にさせてしまっていると思います。
――特に日本人女性は我慢が得意ですもんね…。
そうなんですよね。いろいろ我慢しているので、癒しを求めてお越しになる方もいますが、まずは全身の感覚を回復させるケアをします。痛みも体の節々に蓄積していますので、痛みを開放することから始めます。特に50代、60代の方は、長年の疲労がたまっていますので、膣だけの問題ではないことにまずは気がついていただきたいと思いながらケアしています。
私のところにはどこの病院にいっても異常はありませんと言われ、納得できないと言っていらっしゃる方もいます。何軒も病院を回って、ネットや雑誌を見て調べてたどり着いた、という方が多い。他県からもお越しになります。「膣が痛いし、炎症を起こしているから自宅近くの産婦人科を全部まわったけれど、“異常ありません”と、どこの産婦人科でも取り合ってもらえなかった」と仰っていました。「歩くとすれて痛いんです」と仰って。不定愁訴の訴え方が細かく、ちょっと個性的で、診る医師によっては、診療内科を紹介されるだろうなという状態の方もいます。私からみたら個性が強いだけの方なんですよね。そういう方は、真剣ですのでケアもしっかりやってくださいます。複数回来院してもらううちに表情も落ち着いてこられます。映画を観たりする心の余裕ができてきたことがうれしいと、想定外の心の変化を喜ばれることも、膣ケアの場合は珍しくありません。
――生活環境のストレスが強くても膣に症状がでるのですか?
いらっしゃる女性たちのお話を聞くと家族の問題や、特に親の介護問題でストレスを抱えている方が多いですよ。自分がどうしたいか、ということではなくて、周囲がどうして欲しいと思っているのか、ということが基準になっている方が多い。なので、彼女たちの楽しいことや、やりたいことを聞いていきます。
膣をケアすることで、気持ちが前向きになったり、顔色がよくなったりする方が多くいます。毎日トイレにいくたびに痛みや違和感を感じていた方でも症状が和らぎ、お尻や膣が柔らかくなってくると、気持ちや顔色も変化します。
…でも、やっぱり家族の問題によるメンタル面で不調を起こしている方が多いですね。
ほんと女の人はがんばっていますよね。
――膣の問題は現代女性がおかれる環境をも映し出す鏡だということがよく分かりました。しかし膣ケアを自分で行っている女性は多くはないのではないでしょうか。実際にたつのさんがどんな膣ケアを行っているのか、次回に続きます。続きはこちらから
文/北 奈央子、撮影/鈴木 志江菜

たつの ゆりこ
助産師/看護師/鍼灸師
鹿児島県生まれ。
大学病院から助産院、自宅出産と幅広く勤務経験を持つ。鍼灸師としてアロマテラピーと鍼灸を統合した治療室を開設。女性と子供のための治療室「Be born治療室」を開設。全国的にベビーマッサージの普及活動を行い母子支援に従事する。世田谷に「Be born助産院・産後養生院」を開設、院長就任。更年期女性の健康相談室を開設し、現在に至る。
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