
アメリカに住む働く女性、ママたちのライフスタイルを、国際基準マナー講師の大網理紗さんの視点で発信していただくエッセイ。第7回目はというお話です。
大人だからこそ相手の親切を笑顔で受け止める
日本では4月は始まりの季節ですが、アメリカは9月が始まりの季節。5月は卒業なので4月は卒業に向けたイベントが盛んです。先週、高校生のプロムイベントに遭遇しました。プロムとは、高校生活の最後に男女ペアで出席するダンスパーティーのことです。映画などでご覧になった方もいらっしゃるでしょう。
ロングドレスの女の子がタキシードの男の子にエスコートされて、ポーズを決めて写真撮影。プロムでは男性が女性にブーケを贈る習慣があるようで、男の子から贈られたブーケを持った女の子たちがたくさんいました。
日本人の男性だと「エスコートなんて…」と思う人が多いかもしれませんね。そもそも日本はメンズファーストで、レディファーストの文化ではありません。そして私たち女性もレディファーストに慣れていないからか、男性からせっかくレディファーストをされても「大丈夫です! 自分でできるので」と断ってしまったり、気づかなかったり、と可愛くない態度をとってしまうこともあるでしょう。ですが、高校生の男の子たちが慣れないロングドレスと高いヒールのパートナーの女の子を気遣う様子を見ていたら(ヒールに疲れてしまったのかフラットシューズで歩く女の子のヒールを持ちながら手を引いてあげたり)、“思いやりを形にして表現できる”ということはやっぱり素敵なことだなぁと改めて感じました。
私たち大人の女性は、年齢とともにできることが多くなります。責任は自分でとれます。けれど時には男性からの好意を「ありがとう」と笑顔で受け止め、相手の優しさを素直に受け入れることも大切なのではないでしょうか。
それができるのも大人の余裕なはず。いつまでもそんな「可愛さ」を忘れずに持っていたいなあと思いました。
居心地の悪さを感じて別の場所に移ることは“撤退”ではなく“前進”

「Historic Fourth Ward Park」でプロムイベントに遭遇しました。とても高校生には見えない自立した雰囲気をまとった美しいカップルがたくさん。アメリカでは車で学校へ通う高校生が大勢います。この日も女性が車から降りるところから男性がエスコートしていました。
卒業ムードのアメリカで私の周りでもいくつかの別れがありました。子どもの幼稚園のクラスメイトが、別の幼稚園へと移っていきました。日本だと、一度決めた幼稚園に3年間ずっと通うことが多いと思いますが、アメリカでは“子どもに合わないと思った”“もっといいところを見つけた”などの理由で、途中で変わることが多いようです。
別れがあれば新しい出会いもあります。新しいクラスメイトが入ってきました。日本のように転校生がスターのように迎えられる習慣がアメリカにはありません。新しいクラスメイトはある日突然やってきて、まるで昨日からそこにいたかのように普段と変わらない時間が流れています。
もうすぐ小学生になる女の子を持つアメリカ人の友人は「娘なんて、幼稚園3回変わったわよ。家の引っ越しもあったし、娘にもっと合うところがあると思ったから」と。日本は変わることのほうがめずらしいかもと話したら、「Why?(なぜ?)」と聞かれたので、「変わることに抵抗があるのかなぁ…。変わることが不安なのかしら」と答えると「Why?! Why?! Why?! 変わらない方が怖いじゃない! 合わないところにずっといるのかと思ったらゾッとしない?!」と驚かれました。
本当に彼女の言うとおりだと思います。息が詰まるような居心地の悪さを感じたら、次の自分の居場所へ進めばいいだけのこと。それは撤退ではなく、前進です。だからこそ、自分の「小さな違和感」を見逃さないようにしたいと思います。そして、変化することに不安な自分に気づいたときは、「Why?! Why?! Why?!」と自分の心に聞いてみたいと思います。
思いは情熱的に伝える!
先月シカゴでひさしぶりに電車に乗ったら、いろんな人が次々に声をかけてきました。子どもと一緒だったのですが乗るなり、3人が席を譲ってくれ「こちらへ!」「こちらへ!」とみんなが言ってくれたので、どこに座ろうか迷ったほどです。ほかにも「次降りるから、あなたここに座って!」と言ってくれる人もいました。
自分が席を立つときに、立っている近くの人に声をかけているようです。「空いたわよ!」と乗客みんなに知らせるように。シカゴに限らず、アメリカにはこんな「声がけの習慣」が根付いているように感じます。
一方、仕事で3週間ほど日本に滞在した時の事、普段あまり乗らない路線の電車に飛び乗ったものの、行きたい駅に止まるのかがわからず、近くにいた大学生らしき男性に声をかけました。音楽を聴いていた彼は、丁寧にイヤフォンをはずしてから「すみません、普段使わない路線なので、僕もわからなくて…すみません」と謝ってくれました。
「どうしよう!?」と思った時、少し離れた座席に座っている髪の長い女子大生と目が合いました。なんとなく視線を感じるような…? と思いながらも、また声をかけてもわからないかもしれないし、路線図を見れば確実なはずと車内で路線図を探すものの、こんなときに限って見当たりません。先ほどの女子大生から、やはり視線を感じる気がして声をかけてみました。すると、「止まります。見てください」と言われて見ると、スマートフォンの画面でその駅に止まるかどうか、わざわざ調べてくれていました。
なんて優しいんでしょう…! 感激! 感激した後ふと、「せっかく調べてくれていたのに、私が声をかけなかったらどうしていたのかしら」と思いました。自分からは声はかけられない、もしくはかけないのでしょうか。
声をかけられたら応じる、というスタンスなのかもしれないなあと思いました。日本人はでしゃばるのは上品ではないというイメージがあるからでしょうか。世界の人から見れば、「日本人は受け身」と言われてしまうかもしれません、私は「日本人は優しい」と心から思います。
最初に声をかけた男性も、「わからなくてすみません」と、自分に否はないのに謝っていました。「力になれなくて申し訳ない」という思いが自然と言葉になるのは、日本人の優しさだなぁと思うのです。おそらく20代の彼女はまだまだ若いから、声をかける勇気を持てないでいるのかもしれません。私も振り返ってみると、20代の頃は自分から声をかけるタイプではありませんでした。ですが年齢を重ねるうちに、それができるようになってきた気がします。それは自信がついたからというより、図太くなったからかもしれません。
それでもいいんです。大人の女性には時にそんな「図太さ」も必要だと思いませんか? もしかしたら余計なことかもしれない。出しゃばっていると思われるかもしれない。けれど年齢を重ねた分だけ、「伝えよう!」と思った「今の自分の気持ち」は思いきって伝えたい。
そんな私でいたいなと思います。アトランタに帰ってから、日本でいうママ友に日本のクッキーをお土産に差し上げました。幼稚園のお迎えの後に駐車場で渡したのですが、彼女はその場ですぐにリボンを解き、クッキーの包み紙をあけて、クッキーを取り出して食べて、「Wow! リサ、ありがとう!」とハグまでしてくれました。アメリカはおみやげを渡す習慣があまりないからでしょうか。
まるでバースデープレゼントを渡したときのような反応! 日本人とは違った感性なんだなぁとしみじみ思いました。でも、素敵なことだと思いませんか?
“思いは情熱的に伝える”私もさっそく今日から実践してみたいと思います。
リサ・コミュニケーションズ代表 大網理紗

大網 理紗
リサ・コミュニケーションズ代表
世界の王室・皇室・政府要人といったVIP接遇業務に従事した後、全国アナウンスコンクール優秀賞、国際優秀賞受賞などの経歴を活かし、話し方&国際基準マナーのスクールRiSA Communicationsを設立。
独自のメソッドを開発しコミュニケーションスペシャリストの育成を行なう。大学、教育委員会、企業等で数多く講演。また、宮内庁・王室主催の舞踏会などで社交界の経験を積む。
著書
『人生を変えるエレガントな話し方(講談社刊)』
『大人らしさって何だろう。(文響社刊)』
話し方&国際基準マナーのスクールRiSA Communicationsを設立。国際基準マナー講師。