“男性学”研究者 田中俊之さんインタビュー『<40男>はなぜ嫌われるか』<第一回>【#FocusOn】

“男性学”研究者 田中俊之さんインタビュー『<40男>はなぜ嫌われるか』<第一回>【#FocusOn】

なぜ40男が嫌われるのか?40男たちの生きづらさとは?『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)著者 大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授 田中俊之さんインタビュー!親との関係、学校教育、就職氷河期、どんどん変わる社会…40男が嫌われる理由について率直に語っていただきました。


“男性学”を研究する大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授 田中俊之さん。2015年に発売されたご著書『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)を拝読し、40代女性向けメディアWOMe(ウォミィ)としては、「ぜひお話を伺わなければ!」と田中さんの元へお邪魔してきました。

この本が書けたのは僕が男性としてマジョリティだから

――本日はお会いできて嬉しいです。『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)を読んで<40女>としては思わず笑ってしまいました。

ありがとうございます。女性からは「良く言ってくれた!」という声が多いんですけど、男性からは批判的なコメントばかりです。Amazonのレビューをみていただくと分かるんですが、“本当のことを書かれたから男性としては嫌なんだろうな”と僕は理解しています(笑)

――たしかに (笑)

でもですね、こういう本が書けるのは僕が男性としてマジョリティだからなんです。「若いですね」とおだてられると、つい真に受けてしまうなどこの本で批判的に書いたことは、僕自身にも当てはまります。だから「気を付けようよ」という思いを込めています。

――もう少し、具体的にどういうことか教えていただけますでしょうか。

例えばなんですけど、男性は女性よりも雑談力が低い人が多い。雑談力の低い40代の男性上司が20代の女性部下とエレベーターで一緒になるとします。そうすると「今日は暑いね」なんて天気の話をしたらもう後が続かない。で、自分たちが20代の頃から “当たり前”にしてきた恋愛話をしようとする。「彼氏いるの?」なんて聞いてしまう。そう聞かれた20代女性は「気持ちワルッ」となる。実際今の大学生に「恋愛に興味ある?」って聞くと「興味ない」っていうんです。いまどきの20代は恋愛の話を友だち同士で“当たり前”にはしないんです。

――恋愛に興味ないんですか! それは驚きです。

それから「どこに住んでるの?」と聞かれるのも気持ち悪いらしいです。せめて「何線?」くらいにして欲しいと。「どこに住んでるの?」だと「○○駅」って答えなきゃいけない気がするって。おじさんも深く考えず気軽に聞いてしまうんですけどね。でも相手が“気持ち悪い”と思っていることを知ったら言わないように意識できるじゃないですか。

――…私も「どこに住んでいるの?」も気軽に聞いてしまっていますね…おじさんじゃなくておばさんに聞かれても気持ち悪いのかな…(20代のカメラマン女性に聞く)

20代カメラマン女性:関係性にもよりますが、…嫌です(笑)

――…気をつけます…。

女性学から派生した男性学

――田中先生は“男性学”というものを研究されていらっしゃいますが、“男性学”を志したのはなぜでしょうか?

僕は大学の時に社会学を専攻しました。同級生には様々な男子学生がいました。サークルを楽しんでいる人、バンドをやっている人、アルバイトを頑張っている人。様々な個性の男子学生たちがいたんです。そんな彼らが、就職活動の時期になったらみんな一様に疑いもなく、就職に向けて動き出しました。女子学生は大学院に進学するとか、留学するとか別の選択肢を持つ人たちもいたんですが、男子生徒は一様に就職活動に邁進した。その時に「これっておかしくない?」って思ったんです。就職して定年まで約40年間働き続けるのが当たり前…「そんなの僕には信じられない、嫌だ!」って思ったのに周りの男子学生たちは疑いもなくそのレールに乗ろうとしている。それって、そういうものだって社会から思いこまされているからなんですよね。

――なるほど…先生はそうではなかった、と?

僕は皆が“ふつう”だということが“ふつう”だと思えない人間だったんです。皆が“あたり前”だと思うことを“どうしてあたり前だと思うのか?”と考えていました。社会学を学んだことも大きいと思いますが。元々そういう素地があって、社会学を学んで自分の考えに馴染んだ、という感じでしょうか。子どもの時から目の前の現実より絵本の中の空想の世界に生きるのが好きで、大人からは“あまのじゃく”だと思われていたと思います(笑)

――男性学とはどういう学問なのですか?

“男性学”は“女性学”から派生しました。日本では女性学を1970年代に井上輝子先生が“女性による女性のための女性を対象とした学問”として始めました。そして80年代半ば、男性が主体的にジェンダー問題について取り組もうとして“男性学”という学問が始まりました。男性学は“男性が男性だから抱えてしまう悩みや葛藤”を対象にした学問です。さっきお話した“男だから就職して定年まで働かなきゃいけないなんておかしい”という話にも繋がっていますね。

――なるほど…男性とひとくくりに言っても年代によっても抱える問題は違いますよね?

そうですね。40代男性が抱えている問題と20代が抱えている問題は違います。男性学が始まった当時でいうと、40代男性はなぜ会社に縛られて生きなければいけないのか、などがテーマになっていました。20代男性だと“オタク問題”とか“シャイマン(今でいう草食系男子)”とか…

対して女性学の場合、女性が抱えている問題って年齢を超えて共通のことがかなりあると思うんです。もちろん“既婚・未婚”とか“子あり・子なし”、などによる問題の違いはあると思いますが、相対的に“女性は差別される側”であると認識されていますよね。なので、それにより女性が感じる“生きづらさ”というものは共通なんです。男性にはそれがない。

みんなが思い描く“ふつう”のおじさん像はもはや“ふつう”ではない

――WOMe(ウォミィ)の読者層は主に40代の女性です。実際、40代女性のパートナーは<40男>であることが多いと思います。そこで今の40代男性が抱えている生きづらさ、とはどういったものなのか教えていただけますか。

それはですね、もう明白にあります。90年代、ほとんどの男性たちは正社員としてフルタイムで働いて会社に縛られていました。なので男性学は“会社に縛られて生きるなんておかしい”ということに注目していたんです。ですが、僕ら40代男性たちはそもそも会社に縛られるも何も就職氷河期で正社員になれずにまともに働けていない人が多い。つまり、多くの人が思い描く、“バリバリ働いて仕事の後は居酒屋に行って女房の愚痴を言いながらくだをまくおじさん”なんていうのはマジョリティではなくなっています。今やそういう“みんなが思い描くおじさん”って実は、恵まれている人たちなんですよね。

どう恵まれているかというと、まず“結婚”している。そして居酒屋で呑める“経済的な余裕”がある。この2点を多くの40代男性はクリアできていない。なのに、みんなのおじさん像はアップデートされず、未だに仕事のあとは新橋で呑むおじさんが“ふつう”だと思っている。

20代から非正規雇用で働き続けて給料も変わらず、給料が低いから自信も持てず結婚もできないまま40代になった男性たちは「あの“ふつう”のおじさんにすら俺はなれないのか」という思いを持たざるを得ない。“ふつう”っていうのは“平凡”っていう、“誰にでもできる”ということですよね。そこに自分は届かないんだと認識するのはキツイことです。

――辛いですね…

男性学は、現代の40代男性に“二つ”共感を得るルートがあると思っています。一つは“就職して40年間会社に縛られて働き続けるのはおかしい”という意識を持つ人々へのルート。もう一つは本当はすでに幻想である、“40代になれば結婚して子どもがいて会社でもそこそこのポジションに就いている「ふつう」に届かない自分に苦しんでいる”という意識をもった人々へのルート。現代は昭和のおじさん像とはかけ離れたおじさんたちであふれている。けれど出来上がってしまった“ふつう”のおじさん像は根強いという問題。この二つが今の40代男性たちが抱えてる問題で、後者の方がより深刻だと思います。

――“ふつう”だと思っているおじさん像が“ふつう”ではない。これは目から鱗でした。現実とイメージの乖離に苦しんでいる40代男性たちが多い、という現実を知り切なくなりました。第二回目は<40男>たちが育ってきた環境から染みついた“男たるもの”の呪い、『<40男>はなぜ嫌われるのか』を書いた理由、などについて。お楽しみに。第二回へ続く

文/和氣 恵子、撮影/鈴木 志江菜

田中俊之さんプロフィール

田中俊之さん 博士(社会学)
1975年、東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授 男性学を主な研究分野とする。著書 『男性学の新展開』(青弓社)、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社プラスα新書)、小島慶子×田中俊之『不自由な男たち――その生きづらさは、どこから来るのか』(祥伝社新書)、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)
「日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている

<40男>はなぜ嫌われるか (イースト新書)

¥ 930

2015年時点で30代後半から40代前半までの男性を、本書では「40男」と呼ぶ。この世代は、「昭和的男らしさ」と「平成的男らしさ」の狭間を生きている。「働いてさえいればいい」と開き直ることも難しいし、若い世代のようにさらりと家事・育児もこなせない、自分の両面性に葛藤し続けてきた男たちである。問題は、若い女性への強い興味に象徴される、そのリアリティと現実のギャップにある。40男の勘違いは、他人に迷惑をかけるだけではない。そのギャップは、僕ら自身の「生きづらさ」に直結しているのだ。



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