日本の育児休業の取得率はわずか6.16%!社会問題を個人の問題に転換する恐ろしさ<第三回>【#FocusOn】

日本の育児休業の取得率はわずか6.16%!社会問題を個人の問題に転換する恐ろしさ<第三回>【#FocusOn】

日本の育児休業の取得率はわずか6.16%!『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト新書)著者の大正大学 心理社会学部 人間科学科 准教授 田中俊之さん。男性学の先駆者である田中先生に男性の育児休業率の低さなどについてお話を伺いました。インタビュー第三回目です。


前回までの記事はこちらから。

フラリーマンなんて言葉もありますが、男性はどうも家庭に居場所がないようです。田中先生が考える<40男>の家庭での居心地の悪さとは? インタビュー第三回は、男性が家事育児にかかわる際の理想と現実のギャップや男性育休問題についてです。

ポイント制の評価軸で生きてきた男性たちは家庭に居場所がないと感じる!?

――“世の中的に上手く生きてきた男性たち”にとって、家庭というものはかなり厳しい環境、と仰いましたがどういうことでしょうか?(第二回の記事参照

結婚式で新郎を紹介するスピーチに「新郎の○○くんは○○大学を出て○○会社に入り、現在は○○で活躍され…」なんてものがあるじゃないですか。あれは男性を「こんなに素敵な男なんですよ」とゲストに伝えるための表現手段です。それに学歴や会社などが使われる。つまり、男性はずっと社会におけるポイント評価のなかで生きてきたんです。

「進学校に入ったら100ポイント」「○○大学に入ったら200ポイント」「○○会社に就職したら300ポイント」といった具合に、順調にポイント積み重ねていって高いポイントを持っている人ほど評価が高い。なので男性はたくさんポイントを得るために努力をする。

けれど、いくら会社で頑張ってると言っても、家庭ではそのポイントは使えないんですよ。家庭では、実際に皿を洗ったり、子どものおしめをとりかえたりしなければポイントはたまらないんです。

会社と家庭のポイントカードがそれぞれ別だということを理解していない男性は少なくありません。ヤマダ電機でビックカメラのポイントカードを出して、たくさんポイントがたまっているから買い物させろって言っている客がいたら誰でもおかしいと思いますよね。家庭には家庭の、地域には地域のポイントカードがあることを、男性は理解する必要があります。

――なるほど…男性に意識を変えてもらうにはどうしたらいいんでしょう? 例えば、最近では育休を取得する男性も増えてきているようですが…。

社会問題を個人に委ねてしまっている

個人にそれを委ねるのは酷だと思います。実際、男性の育児休業率はたった6.16%「平成30年度雇用均等基本調査」(速報版)です。社会の風潮は男性が育児休暇を取るのを良しとしていない、ということです。現状を見ずに、理想だけを語るのはナンセンスです。“現実がどうであるか”ということをしっかり見極めなくてはいけません。

――現実は厳しいですね…。

理想と違って現実の社会的で良しとされていない男性の育児休業を実際に取ったらどうなるか? 評価を下げるかもしれないし、陰口をたたかれるかもしれないし、部署が変わってしまうかもしれません。男性の育児休業率が6.16%ということは圧倒的にマイノリティなわけです。マイノリティの中で先駆者として立たされるのは非常に勇気のいることです。

さらにいうと、先ほども話しましたが、現実は女性の方が3割も賃金が低いんです。男性が一家の大黒柱である現状で、男性が育児休暇をとったり時短勤務をしたりして生活が成り立つのか? という問題もあります。

――たしかに。

もちろん男女の賃金格差なんてあってはならないことです。男でも女でも能力のある人が出世して相応の給料をもらうべきだし、男性でも育児に向いている人は主夫になればいい。けれど現実はどうか? 女性で役職についている人はマイノリティだから居心地が悪いし、男性で育児をしている人はマイノリティだから社会の中で珍しい目で見られて居心地が悪い、と言う現状なわけです。そんななか進んで男性が育児休業を取得したいと思うか? ということです。

――難しいですね。

僕は「どうあるべきか」を論じる前に、「どうあるか」を把握する努力が必要だと思います。こういった問題を個人の問題にすると辛いですよ。社会構造の問題なんですから。しかしこういう話をすると、「なんでも社会のせいにしたら何も始まらないじゃないか」というような意見も言われます。さらに「まずは個人の意識を変えることだ」とも。でもそれってとても無責任だと僕は思うんです。一人ひとりが意識を変えることは大切ですよ。でも社会問題を個人に委ねてしまうことはおかしい。意識を変えたとて、賃金のバランスが男女で10:7というのは変わらないんですから。明確に今ある男女の賃金格差や性別によって感じる圧力などは適切に現状を把握し社会問題として扱い、企業などが努力をして問題を改善していかなきゃいけないんです。

大切な人とはしっかりと向き合い話し合う時間を作る以外、上手くいく方法はない

――今ある社会構造のなかで、男女が共に幸せに楽しく過ごすにはどうしたら良いんでしょう…。日々生活をする中で、私たち40代女性は自分のやりたい仕事をもっとやりたいと思ったり、家庭生活をもっと上手に回したりしたいと思っている。そこには、当然男性がいるわけですが、女性はどう立ち回れば男性たちと上手くやっていけるんでしょうか?

もし、価値観の合わない集団の中で仕事をしなければいけないのだとしたら、外部に立つことだと思います。つまり、その場以外の自分が心地よいと感じる居場所をつくることです。価値観って一つじゃない、だから自分と価値観の合う場所を探すんです。趣味でもなんでもいいですよね。

しかし僕は正直、そもそも会社にそこまでコミットする努力をする必要はないと思います。努力の割にはリターンが少ないから。でも親密な人との関係性は別ですよね、大切な人とのコミュニケーションは真剣に考えなければいけない問題です。

――そうですね。

大切な人と上手くやるには、“真剣に面と向かって話をする時間をつくる努力をする”以外はないと思います。直接会って身振りや手ぶり、雰囲気などを伴って話さないと伝わらないことって多いと思うんです。親密な人とであれば尚更です。誤解とか伝わらないってことが積み重なってしまうと上手くコミュニケーションがとれなくなってしまう。

人間はノンバーバル(※)の部分でも当然コミュニケーションをとっているわけです。なので、頻繁に会話をしていたら、相手の変化にも気づきやすくなると思います。例えば「妻がなにかイライラしているな」と感じたとして、ちゃんと普段から妻とコミュニケーションをとっていれば、イライラの原因も「あ、体調が悪いからイライラしているのかな」とか「嫌な上司からまた何か言われたのかな」など想像することができる。そうすることで、相手に対する態度を変えることができるし慮ってあげることができると思うんです。

――少し話は変わりますが、『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)の中で、ジェーン・スーさんと田中先生が対談されていて、“恋愛と結婚は別”と仰られています。それがとても腑に落ちたのですが、改めて先生がそう思われる理由を教えていただけますか?

ちょっとこれを話し出すと長くなってしまうのですが…それには前提があって、近代の日本は社会のつくり方に無理やり感があると思っているんです。

――男性の育児休業率の低さなどの社会問題を個人に委ねるのはおかしい、という田中先生の力強い発言に深く納得させられました。学問をするということは現状をしっかり把握し、伝える術を持つことだということを感じました。最後に“恋愛と結婚は別”と田中先生が仰る真意について、江戸時代が終わってから社会のつくり方に無理やり感があると思う、というお話が飛び出しました。最終回に続きます。お楽しみに。※7月10日(水)12時公開予定

※表情や会話や文字以外のもの

文/和氣 恵子、撮影/鈴木 志江菜

田中俊之さんプロフィール

田中俊之さん 博士(社会学)
1975年、東京都生まれ。大正大学心理社会学部准教授 男性学を主な研究分野とする。著書『男性学の新展開』(青弓社)、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社プラスα新書)、小島慶子×田中俊之『不自由な男たち――その生きづらさは、どこから来るのか』(祥伝社新書)、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)
「日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている

<40男>はなぜ嫌われるか (イースト新書)

¥ 930

2015年時点で30代後半から40代前半までの男性を、本書では「40男」と呼ぶ。この世代は、「昭和的男らしさ」と「平成的男らしさ」の狭間を生きている。「働いてさえいればいい」と開き直ることも難しいし、若い世代のようにさらりと家事・育児もこなせない、自分の両面性に葛藤し続けてきた男たちである。問題は、若い女性への強い興味に象徴される、そのリアリティと現実のギャップにある。40男の勘違いは、他人に迷惑をかけるだけではない。そのギャップは、僕ら自身の「生きづらさ」に直結しているのだ。



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