
「なによイクメンパパぶりアピールする投稿しちゃってさ!」「何今の態度!私の方があの人より下だって言いたいわけ?」「あーこれにおわせねーあざといー」、実生活の中ではリアルでもネット上でも嫉妬の渦はグルグルグルグル私たちの周りを、時に私たちを巻き込んで離しません。そんな嫉妬の渦に呑み込まれたら…呑み込まれそうになったら…ちょっと深呼吸して、絵本コーディネーターの東條知美さんのおススメするこんな絵本を読んでみませんか?
嫉妬の渦は違うところで。ここ圏外です
「嫉妬」という言葉で思い出す場面がいくつかあります。
高校生の頃。毎日彼氏とラブラブだったKさん(女子)が、ある朝机に突っ伏していたので「どうしたの?」と尋ねると、ムクリと上げたその顔はまるで鬼夜叉。一夜にしてスマイリーアイドルから鬼夜叉に変貌したKさんは、他の女子の元へと去って行った元彼Sへの恨みを述べ、その1億万倍の勢いでSを略奪した女子に対する呪いの言葉を吐いていました。エンドレス。罵詈雑言がエンドレス・レイン。
「嫉妬が過ぎる」と陰でみんなが噂していたけれど、私はKさんの生々しい感情に触れ、なんだかうっすらと感動すら覚えました。Kさんは今幸せだろうか。
我が身を振り返りますと、テレビに出させていただいた頃にちょっとだけ意地悪なことを言われたことがありました。友人に「人々は暇か」とこぼしたところ、「それは嫉妬さ」と言われ心底驚いたものです。嫉妬って、なんかもっとずっと違うところで渦巻いてるはずなんでよろしく頼みます、ここ圏外です。
ネットで検索してみると、「入社したときは皆横並びだったのに、ある日気が付いたら出世してた同期の仲間」とか、「お金持ちでエグゼクティブなダンナ+有名校に通う子と港区で暮らすマダム」とか、大人の嫉妬は本当にいろいろ。
そういえばあのグリム童話にも、みなさんが知っている有名な「嫉妬からはじまるお話」がありますね。
『白雪姫』(たかのもも 作/グリム 原作 フレーベル館)

ある国に、紅いくちびると黒い髪、白い肌を持ったお姫さまが生まれました。「白雪姫」と名付けられたお姫さまは大切に育てられますが、まもなくお妃さまが病に倒れ、意地悪な継母(新しいお妃)が城へやってきます。自分より美しい者がいることが許せないこのお妃は、白雪姫を殺して心臓を持ちかえるよう猟師に命じますが…。
* * * * *
だれもが知っているグリム童話「白雪姫」が、(国際原画展で数々受賞の絵本作家)たかのももの手で美しく幻想的に紡ぎ出された作品。
白雪姫を描く作品は古今東西たくさんありますが、この表紙に描かれた白雪姫の穢れのなさ、儚げな雰囲気にすっかり一目ぼれしてしまいました。
白雪姫が死んだとすっかりおもいこんだお妃はたいへん満足し、ぺろりとそれ(心臓)をたいらげてしまいました。
…うわ、こわ!
グリム童話集は、今から200年以上前にドイツのグリム兄弟が祖国復興を心に掲げ国中の民話を調査・採蒐してお話を集めまわったものです。わりと残酷で恐ろしい内容のお話が多いのです。日本の昔話にも「したきりすずめ」や「つるの恩返し」のように、残酷だったり悲しくて報われないものがたくさんありますね。
「この世は誠におそろしく不条理だが、正しく生きようね」というのが、大昔から世界中で脈々と語り継がれる普遍のメッセージということなのでしょう。
さて、みなさんもご存じの通り白雪姫は死にません。森の中の7人の小人の家でかくまわれ、みんなで家族のように暮らしています。
ですが、お妃にはあの不気味な魔法の鏡、お喋り大鏡がありますから、すぐにばれちゃいます。
白雪姫へのねたみがふたたびよみがえりました。
「こうなったら、わたしの手で白雪姫を亡き者にしてやる!」
本気出しちゃったお妃は声色を変えて変装して、首飾りやら櫛やらリンゴを売りに行きます。私たちはそれに毒が塗られていたり邪悪な魔法がかけられていることを知っていますから、「白雪、開けちゃダメ」「そんなもん食べたらダメ~!」「白雪姫、うしろ、うしろ~!」とやきもきしてしまうのですが、白雪姫は「でも、いい人そうだし…」と思ってしまうのでしょう、毎回毎回騙されます。
毒リンゴの際にはとうとうどうにもならず棺にまでおさめられますが、偶然通りかかった白馬の王子にキスされて蘇生します。
「白雪姫、どうぞわたしと結婚してください」
「はい、喜んで」
「なんでやねん!」というつっこみは“なし”でお願いします。
白雪姫は、持っている。圧倒的に持っている女なんです。この世でいちばん美しい容貌と純粋な心を持ち幸運すらひざまずく女、それが白雪姫です。
嫉妬って、そもそもこういう相手にしちゃいけないんですよね。
それとも・・・お妃が本当に嫉妬していたのは、美しく成長した白雪姫に宿る元妻の面影に、だったのかもしれない。王さまはちゃんと(後妻である)お妃を愛してあげていたのだろうか? お城のみんなは新しいお妃と前のお妃を比べて嫌な態度を取ったりしてなかっただろうか?
おばさんになると、あの邪悪なお妃の心中まで慮ってあげたくなっちゃうんだから、人生って面白いものですね。
『すきっていわなきゃだめ?』(辻村深月 作/今日マチ子 絵/瀧井朝世 編 岩崎書店)

いっしょに いると、あしたも あさっても いっしょに いたくなる。
* * * * * *
本気でだれかに恋している時、嫉妬の辛さは、片想いでもつきあっていても結婚していても、きっと誰もが同じなんだろうな。
好きな人が自分以外の人と仲良くしてるなんて、身がよじれるほどに辛い。嫉妬は、情けなくて弱っちい自分をさらけ出してしまう。
「こうくんも りなちゃんを すきなの?」
この一言を絞り出すことの困難を、おそろしさを…人を好きになったことがある人ならきっとわかるはず。
目が追う。
目で追う。
絵本をめくりながら、いつしかわたしたちはこの子と一緒に「こうくん」を追いかけている。
絵本も恋も、いいものだなあと思いながら、最後にしみじみ泣きました。
恋したことのあるみんなに 読んでほしい絵本です。
『ちいちゃな女の子のうた “わたしは生きてるさくらんぼ”』(デルモア・シュワルツ 文/バーバラ・クーニー 絵/白石かずこ 訳 ほるぷ出版)

わたしは 生きてる さくらんぼ と
ちいちゃな女の子が うたいます。
まいあさ わたしは
あたらしいものになるのよ。
* * * *
「いちばん好きな絵本は?」と聞かれるといつも答えに窮してしまうのですが、こちらは私が「誕生日にかならず読み返す絵本」…つまりとても大切な一冊です。
世界を愛おしい目でみつめ繊細な色彩で紡いだ絵師 バーバラ・クーニー。彼女が描く少女の世界が、デルモア・シュワルツの詩とこの上なく美しいハーモニーを奏でます。
「まいあさ わたしは あたらしいものに なるのよ」
「わたしは あかよ。」
「わたしは 金。」
「わたしは みどりよ。」
「わたしは 青なの。」
「わたしは いつも わたしでしょう。」
自信を失くしてしまいそうな時や落ち込んだとき、一編の詩が、絵本がそっと寄り添ってくれます。呼吸を整えてくれます。
嫉妬? うらやましい? そんなのカンケーないない!
わたしはいつもあたらしくなるのよ。
絵本は、プレゼントにもおすすめです。
絵本コーディネーター 東條 知美
子どもから高齢者まですべての層に向け“毎日がちょっと豊かになる絵本”をコーディネート。講演・テレビ出演等、活躍の場を広げている。