
忙しい日常から離れて、映画の世界へトリップしませんか? 心に沁みる上質なストーリーをご紹介。
今回ご紹介するのはフランスの巨匠、二コラ・フィリベール監督最新作『人生、ただいま修行中』。2002年『ぼくの好きな先生』では小さな村の小さな小学校の3歳から13歳までの13人の生徒たちとたったひとりの先生に寄り添い、最高にハートフルで可愛いドキュメンタリー作品を世に送り出した監督が、今回フォーカスしたのは看護師の卵たち。
国籍も性別も年齢も出身地も宗教も違う彼らに温かい眼差しが注がれる【沁みる映画】第9回です。
※あらすじの紹介と一部“ネタバレ”の部分もありますので、ネタバレがOKな方は是非お読みください。
辛い時、困った時、助けてくれる彼らは、当たり前だけど同じ人間

©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018
フランスの巨匠、ドキュメンタリー映画作家の二コラ・フィリベール監督。カンヌ国際映画祭で「もっとも光り輝く隕石」と絶賛され、“観察”ドキュメンタリー作家の最高峰の一人である二コラ監督が最新作の対象に選んだのは看護師の卵たち。2002年公開『ぼくの好きな先生』では小さな村の小さな小学校の3歳から13歳までに寄り添った温かく慈愛に満ちた眼差しは本作品の看護師たちにも惜しみなく注がれます。
私たちは病院に行く時、痛かったり辛かったり困っていたり悩んでいたりして、そこにいる看護師や医者はそれを取り除いてくれるスペシャリストで問答無用に頼っていい人たちだと思っています。でも…当たり前のことですが、看護師や医者も同じ人間。同じように痛かったり苦しかったり困っていたり悩んでいたりします。
ただし、私たちと看護師には大きな隔たりがあります。彼らは看護師という職務を全うするために看護学校で教えられた言葉を心に刻み日々任務を遂行しているのです。
看護師は全ての人々に対して
耳を傾け助言をし 教育および看護をする
出自や慣習 社会的地位や 家庭環境
信仰 宗教 障害 健康状態
年齢 性別 保険の有無にかかわらず
平等に看護を提供する (本編より)
多様性を尊重する、という意識が高まっている昨今ですが看護師さんたちは遥か昔から多様性を受け入れ敵味方関係なく、すべての人を平等に扱ってきた。
でも、それは看護師が特別な人間だからではなく、私たちと同じようにいい加減だったり喜怒哀楽が激しかったり性格に難があったりしながらも、胸に刻んだこの意識をもって日々悩みながら苦しみながら患者さんに向き合っている、ということがこの映画を観るとよくわかります。
考えてみれば当たり前のことなんですけど…。
多様性に富んだフランスの看護師たちのドタバタな日常

©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018
フランスの看護師の卵たちは多様性に富んでいます。年齢や性別、国籍、出身地、宗教など多様な生徒たちが登場します。意識や感性が看護師の卵たちの間でも様々に違い、右も左もわからない中から一つひとつ学び成長していきます。
基本的な看護師の心得などの膨大な知識のインプットから思わぬ場面に立ち会った時の対処法や心のケア方法、責任に立ち向かう心構えなどを教わります。時にはマネキンを使って即興演劇のようなことをしてふざけ合いながら授業は進みます。そしてついにインターンシップ期間として一年目から実際の医療現場に駆り出されます。
彼らの実習先は、心臓病の病棟、末期がん患者の緩和ケアをするホスピス、統合失調症や躁鬱病患者の多い精神科、HIV患者も訪れる婦人科・産婦人科、外科、小児科など…。自分が希望する実習先に行けるようになるのは二年目から。一年目は否応なしに与えられた現場で実習を行わなければいけません。
卵たちを待ち受けていたのは患者とのトラブルや職場での人間関係…彼らや悩み苦しみます。しかしそんな彼らをサポートする頼もしい存在がいます。それがカウンセラー。とまどい怯え、時には自分を責める卵たちにカウンセラーは問いかけ寄り添い言葉を引き出します。
そして、彼らは時に涙を浮かべながら胸の内を語り始めるのです。
絶賛 “人生、ただいま修行中” です!

©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018
いつどんな時も穏やかな笑みを浮かべ、こちらの苦難に対処してくれる白衣の天使。そんなイメージを今だに持たれがちな看護師たち。ですが、最初からそんな風に対処できるはずはなく、卵たちは日々訪れる患者に一喜一憂し、職場の人間関係に悩み、プライベートで起こったトラブルに苦しみます。
そんな彼らに寄り添い言葉を引き出し勇気づけるカウンセラーたち。彼らがいるからこそ、卵たちはまた明日から現場で頑張ることができます。
ついつい目の前や半径1mのことだけを見ていると、何かと何かを切り取って、それだけで生きていけるような気がします。しかし、それではやっぱり人間は豊かに生きていくことはできないのだということをこの映画は教えてくれます。
人と人との関係は連綿と繋がっていて、だからこそ幸せも不幸せも表裏一体。禍福は糾える縄の如し。始まりがあって終わりがあるのが物の常ですが、誰もが始まりを経験し、様々な出来事を体験し、少なからず成長していく。
そんな私たち自身がこの映画の中にはたくさん登場します。
弱くて情けなくてちょっと自分勝手で…そんな生身の人間たちがどれだけ素晴らしく愛おしいか。二コラ監督の優しい眼差しを感じながら『人生、ただいま修行中』ぜひ、ご覧ください。
「そう! 私、人生、ただいま修行中! あたたかく見守ってね」
そんな風に自分に胸を張れる、勇気をもらえる映画です。

『人生、ただいま修行中』
11月1日(金)~新宿武蔵野館他全国順次公開
監督・撮影・編集:ニコラ・フィリベール
2018年/フランス/フランス語/105分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/英題:Each and Every Moment/日本語字幕:丸山垂穂/字幕監修:西川瑞希
配給:ロングライド 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
文部科学省特別選定(青年、成人向き) 文部科学省選定(少年向き)
©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018

『ぼくの好きな先生』『パリ・ルーヴル美術館の秘密』名匠ニコラ・フィリベール監督11年ぶり日本公開最新作。フランス、パリ郊外。“誰かのために働くこと”を選んだ看護師の卵たち。40人150日間の感動奮闘ドキュメンタリー。11/1(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
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