名匠ケン・ローチ監督最新作 映画『家族を想うとき』 ただ家族で笑い合っていたいだけなのに【沁みる映画 #10】 | 大人のワタシを楽しむメディア
名匠ケン・ローチ監督最新作 映画『家族を想うとき』 ただ家族で笑い合っていたいだけなのに【沁みる映画 #10】

名匠ケン・ローチ監督最新作 映画『家族を想うとき』 ただ家族で笑い合っていたいだけなのに【沁みる映画 #10】

『わたしは、ダニエル・ブレイク』で2016年のカンヌ映画祭のパルムドールに輝き、引退を表明していた名匠ケン・ローチ監督。監督が引退を撤回してまで撮りたかったのはグローバル経済が生み出した社会体制のひずみにはまりながらも懸命に正直に生きる人々の姿。家族一緒にご飯を食べて笑い合っていたいだけなのに…ユーモアを交えながら圧倒的なリアリティで迫る『家族を想うとき』。享受する便利の裏側にある苦しみとやるせなさを直視する義務が私たちにはあるはずです。


忙しい日常から離れて、映画の世界へトリップしませんか? 心に沁みる上質なストーリーをご紹介。

今回ご紹介するのは映画界の名匠ケン・ローチ監督が引退を撤回してまでも撮りたかった、今、世界中で起こっている問題を温かな家族を通して描いた『家族を想うとき』。

観終わった後、心に様々な想いが広がり沁みついてはなれない…【沁みる映画】第10回です。

※あらすじの紹介と一部“ネタバレ”の部分もありますので、ネタバレがOKな方は是非お読みください。

あなたの家に荷物を運んでくる人、家族の介護を手伝ってくれる人、みんな生きて生活してる

『わたしは、ダニエル・ブレイク』で2016年のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した名匠 ケン・ローチ監督。その後、引退を表明していた監督が引退を撤回してまで描きたかったのが最新作『家族を想うとき』。

新しいテクノロジーが生まれ、グローバル社会と経済が猛スピードで進化し続けている“今”、世界中のあちこちで新たな問題が勃発しています。映画が描くのはイギリス社会ですが、日本社会にも同様の問題が起こっています。

サービスをただ享受している人たちには決して見えてこない、知ることがない世界。

『家族を想うとき』には「救いのない映画だ」と思わず目を背けたく瞬間があります。ですがこれは現実に世界中で起こっていること。自分に何ができるのか、観終わった後、深く深く考えさせられます。

一家の主、リッキー(クリス・ヒッチェン)はフランチャイズの宅配ドライバーとして独立します。“やればやるだけお金が稼げる。勝つも負けるのも自分次第”だと言われ、不安を覚えながらも「そういう仕事がしたかった」とやる気を見せるリッキー。

しかし宅配に使う車は自分で用意しなければいけません。借金だらけで元手がないリッキーは介護士として働く妻アビー(デビー・ハニーウッド)が仕事に必要な大切な“足”として使っている車を売るように強要します。最初はしぶっていたアビーも夫の熱意を受け入れ、車を売ることを決意します。

そもそもリッキーが宅配ドライバーになったのは、10年前にイギリスで起こった銀行の取り付け騒ぎで家が購入できなくなり、建設の仕事も失ってしまったことが原因です。マイホームを持つために真面目に一生懸命働いてきた夫婦のお金と夢はその事件により、一瞬で奪われてしまいました。

けれど、「このままではいたくない! 2~3年死に物狂いで働いてお金を貯めてマイホームを手に入れるんだ!」とリッキーは奮起したのです。

アビーはそんなリッキーの想いが痛いほど分かるからこそ、自分がさらに過酷な労働状況に追い込まれることを承知で車を手放すことを決めます。

アビーは慈愛に満ちていて、どこまでもまっすぐで強くて母性あふれる理想的な妻であり母であり介護士です。介護する相手を自分の親のように想い、時間外であっても頼まれれば駆け付け、自分の昼休みも削ってでも奉仕します。

そんなアビーをもっとも苦しめるのは大切な子どもたちと一緒の時間を作れないということ。

いつもいつも時間のないアビーは常に携帯で子どもたちと連絡をとり一日の予定を伝えます。早朝から深夜まで働き詰めのアビーは子どもたちと顔を合わせて話をすることができないのです。

子どもを深く深く愛するアビーにとってそれは一番辛いことです。

夫婦の大切な子どもたち、長男のセブ(リス・ストーン)と長女ライザ・ジェーン(ケイティ・プロクター)はとても聡明で優しくて両親のことが大好きです。

兄妹の仲はとてもよく両親は仕事で常にいないけれど、二人で仲良く動画を見ながら夕飯を食べます。セブは妹が大好きで、ライザもお兄ちゃんが大好きです。

けれど二人はまだまだ幼くて両親がいないと不安で寂しくて悲しいのです。

“両親と少しでも一緒にいたい”

そんな当たり前の想いがセブとライザを少しずつ“蝕んで”いきます。

家族一緒に笑顔で時間を過ごす。ただそれだけがしたいのに

ライザはユーモアにあふれた知的な子どもです。ある日、パパの車に乗って配達を手伝います。仕事をしている時間。でもライザにとっては大好きなパパといられる最高の時間。

まるで、遊園地にでもいるかのように、ライザは生き生きと楽しみながら配達を手伝います。そしてライザに荷物を渡された人たちは可愛いライザにチップを渡します。二人の間に幸せな時間が流れます。

一日中トイレに行くこともできず、食事をまともにとる時間もなく、不在者がいればお金がもらえないので不愉快になり、理不尽な客に怒りを露わにし、くだらないイザコザに巻き込まれうんざりし…配達なんて少しも楽しくもないヘトヘトなパパがライザと一緒に仕事をすることで少し生き返ります。

「パパとても楽しかった。また一緒に配達させてね」とライザは言います。

一緒に遊んだわけでもない、仕事を手伝っただけ。それなのにライザは心から楽しくて幸せなのです。

フランチャイズを仕切り、配送者に荷物を割り振るマロニー(ロス・ブリュースター)は弱者を平気で搾取する人間です。リッキーが娘と配達をしたことで客からクレームが入り「二度と一緒に配達するな」とリッキーに伝えます。

「自分の車に誰を乗せたっていいだろう。自分が仕事のオーナーなんだから」

と主張するリッキーにマロニーは「ルールがあるんだ」と言います。

強者の論理を弱者に押し付け、正当化し逆らえないようにする。映画を観ている大多数の人たちは「なんて無慈悲で酷いやつなんだ」と思うでしょう。

…けれど…

自分はそんな人間じゃない、なんて言えるでしょうか?

どうしたら家族で笑い合えますか?地獄から抜け出すためにはどうしたらいいですか?

何とか時間を捻出し、家族4人でディナーを食べられたと思ったら、アビーの携帯が鳴ります。

夜来るはずの介護士が来ず、3時間もトイレに行けない状態が続いている、という利用者からのSOSです。

今日は久々の家族4人そろってのディナーです。でも…利用者のことを自分の親のように考え接するアビーは、時間外でお金ももらえないのにもかかわらず“行く”という選択をします。するとセブが「みんなでパパのバンに乗っていこうよ!」と提案します。

思いがけない夜のドライブを家族は心の底から楽しみます。窮屈な車の中で歌って踊る父と母と子どもたち。

そんなことが幸せなのか、幸せとはなんなのか。

こんなに辛い状況の中で、誰かに当たり散らすこともなく、じっと耐え、自分よりさらに弱い人たちを助ける。そんな心優しく真面目な人たちがなぜ、人並みの生活ができないのか。

家族で笑い合ってご飯を食べる時間さえ持てないのか。

なぜなのか?

「社会が悪い」

それだけで済ませていいのか? 

この映画は私たち一人ひとりが当事者として、社会に関わる責任と義務があるということを強く訴えてきます。悪者を探すのではなく、自分にできることを真摯に考える、見つける、そして行動する。

この映画に出てくる人たちはみんな、私たちが日常的に関わっている人たちです。今日、すれ違うあの人やあの人、知り合いのあの人やあの人、大切なあの人やあの人。自分を取り巻くすべての人たちへ思いを馳せてしっかりと見つめたい。

映画『家族を想うとき』は12月13日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開です。

『家族を想うとき』

監督:ケン・ローチ『わたしは、ダニエル・ブレイク』『ジミー、野を駆ける伝説』
脚本:ポール・ラヴァティ『わたしは、ダニエル・ブレイク』『ジミー、野を駆ける伝説』
出演:クリス・ヒッチェンズ、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター

2019年/イギリス・フランス・ベルギー/英語/100分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/
原題:Sorry We Missed You/日本語字幕:石田泰子
提供:バップ、ロングライド 配 給:ロングライド photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

12/13(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

映画『家族を想うとき』公式サイト

https://longride.jp/kazoku/

『わたしは、ダニエル・ブレイク』ケン・ローチ監督最新作。第72回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門 正式出品。12/13(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開



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