
忙しい日常から離れて、映画の世界へトリップしませんか? 心に沁みる上質なストーリーをご紹介。
今回ご紹介するのは可愛いおばあちゃんが大活躍するロシア映画の『私のちいさなお葬式』。しんみりシリアスな終活映画ではなく、どこまでもユーモラスで可愛い物語は観終わった後ほっこり温かな気持ちにしてくれます。【沁みる映画】第12回です。
※あらすじの紹介と一部“ネタバレ”の部分もありますので、ネタバレがOKな方は是非お読みください。
突然の余命宣告! その時、母は…

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
ロシアののどかな片田舎に住む元教師のエレーナ(リーナ・ネヨーロワ)は、思いがけず余命宣告を受けます。難しいことはよく分からないけど、ドクターが言うには「とにかくいつ死んでもおかしくない!」とのこと。呆然としながら帰宅するエレーナの前に、元教え子のワレーラ(アルチョーム・レシチク)が現れ「鯉を釣ったけど売り物にならないから」と無理やり押し付けます。戸惑いながらも鯉を引き取り、とりあえずそのまま冷凍庫へ入れるエレーナ。
この鯉がこれからストーリーテラーとして大活躍します!

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
エレーナはその夜、倒れ病院へ搬送されます。そこに現れたのは都会にいったっきり5年も帰ってきてなかった息子のオレク(エヴゲーニー・ミローノフ)。オレクは自己啓発ビジネスで大成功をおさめていて超多忙。エレーナが思ったより元気なのを見ると、来たその日にそそくさと帰ってしまうのです。
息子の大好物で引き留めようとするエレーナ。母親を無表情で振りきり車で立ち去るオレク…。とても切ないシーンです。

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
寂しい気持ちを抱えたまま眠りにつくエレーナ。その夜、不審な音で目が覚めます。
「泥棒!?」
…と思ってみたら…。
あの“鯉”、です。
オレクにご馳走しようと水で解凍していた鯉が見事に息を吹き返し、タライの中で暴れてバチャンッと外に飛び出したのです。
エレーナはその姿を見て、スイッチが入ります。
「もう大丈夫よ。よく頑張ったわね」
鯉に優しく語りかけ、大きな桶に鯉を移し、そして、ある決意をします。
母強し! 「息子に迷惑をかけたくない」という想いで生きながら死す!

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
息子のオレクに迷惑をかけたくない、その一心でエレーナは自分で自分のお葬式をすることを決めます。手始めに埋葬許可証をとろうと役所を訪れますが、「死亡診断書のない人間に許可証は出せない」とあっさり断られます。
「死ねばいいのね!」
エレーナはその足で元教え子のセルゲイ(セルゲイ・プスケパリス)が務める遺体安置所へ。
「オレクに迷惑をかけたくないの!」
強引に教え子に詰め寄ります。大好きな先生の最後のお願い…セルゲイは死亡診断書を書きます。無事、死亡診断書を手に入れたエレーナは意気揚々と役所へ舞い戻り、「ほら! 死亡診断書を手に入れたから埋葬許可証を出して!」と埋葬許可証までも手に入れてしまうのです。
望み通りのものが手に入り、満足げに役所を後にするエレーナ。すると後ろから結婚したばかりのカップルが出てきます。その二人を祝福しようと押し寄せる人々。その間をまるで自分が祝福されているかのように通るエレーナ。人間の一生や“幸せ”について思いを馳せてしまいます。

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
エレーナの一日はまだ終わりません。その足で今度は、葬儀屋さんに。真っ赤な棺をゲットします。包んでもらい自分で持ち帰るエレーナ。そのままバスに乗り込みます。バイタリティありすぎ! 奇妙な光景に「写真を撮ってもいい?」と聞かれOKするエレーナ。写真を撮る若者を見つめるエレーナの表情がなんともシュールです。

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
手押し車を使って無事、棺は家へ到着。エレーナの長い一日がようやく終わります。鯉の様子を見てみると元気に桶の中を泳いでいます。
みんなエレーナが大好き! よき友人と共に自分の通夜でふるまうご馳走づくり

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
翌日もエレーナは大忙し。墓堀り人を引き連れて夫が眠る墓地の横に無事に自分が入る場所を確保。そして次に向かったのは村に一軒しかない食料品店。この店の主もエレーナの元教え子です。
ワレーラのサイドカーに乗るエレーナがなんとも可愛く思わずクスリと笑ってしまいます。

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
大量の食品や飲み物を抱えて帰ると、昨日からエレーナの一連の動きを怪しんでいた親しい隣人のリューダ(アリーサ・フレインドリフ)が友だちふたりと一緒に押しかけてきます。事情を知った友人たちは、驚きながらもエレーナの想いを受け止め通夜ぶるまいのご馳走作りを手伝ってくれるのです。
自ら死に化粧も施して後は死ぬだけ。…でもね…

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
葬儀の準備が完璧に終わり大満足のエレーナ。自ら死に化粧を施してご機嫌で死のうとします。しかし、しかしです。そんなに簡単に死ねるわけがありません。そもそもエレーナ、ベッドに横たわって息を止めて死のうとするのです。そりゃあ死ねません。
困ったエレーナは隣人のリューダの家に夜中に押し寄せ「私を殺して!」とお願いします。激辛口だけれど、エレーナが大好きなリューダは初めは抵抗していたものの了承し、枕を押し付けてエレーナを殺そうとします。
けれど…やっぱりできません!!!
「もう呑もう!」
通夜ぶるまいをつまみにウォッカを呑みだす二人。一見すると悲壮感が漂ってしまいそうですが、ちっともそんなことはなく、完璧にユーモアにあふれていて、ずっとクスクス笑いっぱなしです。
でも…エレーナとリューダが真剣なのは痛いほど伝わるのです。
酔っぱらって疲れて寝てしまうエレーナ。その姿を見てリューダはオレクにメールします。
『お母さん死んじまうよ』
人生の最後に叶えたいことはなんですか?

(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.
知らせを受けたオレクは慌ててかけつけます。そこで目にしたのはベッドに横たわる母の姿。「遅かった…」と懺悔するオレク。酔っぱらって寝ていただけですからエレーナは当然目覚めます。
「ただの酔っぱらいか!」
憤り帰ろうとするオレク。
…すると…
あの“鯉”が奇跡を起こすのです。
息子を愛し、隣人や友人を大切にし、教え子に慕われ、真面目に慎ましく生活してきたエレーナ。しかし余命宣告を受けてからは一転、破天荒な行動を起こし一生懸命自分の願いを叶えようとします。
その姿はとてもユーモラスでチャーミングで、じんわり涙を誘います。
彼女の一途な想いは最後に思いがけないカタチになって、彼女の夢を叶えます。そして観客はとても幸せな気持ちで映画館を後にするのです。
シリアスで小難しい“終活”ではなく、軽やかで温かくユーモアに満ちた終活映画『私のちいさなお葬式』。人生の最後に叶えたいことを叶えるヒントが詰まってます。

『私のちいさなお葬式』
監督:ウラジーミル・コット
脚本:ドミトリー・ランチヒン
出演:マリーナ・ネヨーロワ、アリーサ・フレインドリフ、エヴゲーニー・ミローノフ、ナタリヤ・スルコワ、セルゲイ・プスケパリス
2017年/ロシア/ロシア語/アメリカンビスタ/カラー/5・1ch/100分/原題:Карпотмороженный/日本語字幕:堀上香/ロシア語監修:梶山祐治/後援:ロシア文化フェスティバル組織委員会、在日ロシア連邦大使館、ロシア連邦文化協力庁、ロ日協会、ロシアン・アーツ、日本・ロシア協会/配給・宣伝:エスパース・サロウ
12月6日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
(C)OOO≪KinoKlaster≫,2017r.

余命わずかと告げられたエレーナ、73歳。誰にも迷惑かけないように、自分の<お葬式計画>に奮闘する女性が贈る、笑って泣けてやさしさに包まれる物語!12月6日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開『私のちいさなお葬式』公式サイト
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