
忙しい日常から離れて、映画の世界へトリップしませんか? 心に沁みる上質なストーリーをご紹介。
今回、紹介する映画は実際に83歳の女優が山に登った『イーディ、83歳 はじめての山登り』。人生を楽しむことに、いつだって“遅すぎる”なんてことはない! 2020年の初めに心に刻みたい作品【沁みる映画】第14回です。
※あらすじの紹介と一部“ネタバレ”の部分もありますので、ネタバレがOKな方は是非お読みください。
30年間、夫の介護に人生を捧げてきた83歳のイーディ

イーディ(シーラ・ハンコック)は30年間、歩くことも話すこともできない夫の介護を続けています。ある日、介護の合間に屋根裏部屋で父親が生前送ってくれたスコットランドのスイルベン山の絵葉書を見つけます。手に取るとそこには
“この変な山に登ろう”
と、いうメッセージが。イーディはかつて父親と「スイルベン山に登ろう」と約束し夢見たことを思い出します。その時、階下から音がしたので様子を見に行ってみると、夫は息を引き取っていました。
30年間の介護の末に残されたのは既に嫁いでいる一人娘ナンシー(ウェンディ・モーガン)と一軒家。そして夫の死から3年後、イーディの家は売りに出されます。一人で暮らせると主張するイーディをよそに、心配したナンシーは老人施設への入居を進めていました。
ある日、イーディの家を訪れたナンシーは、イーディが介護の辛さや育児の大変さを綴った日記を見つけて読んでしまい「母さんの世話はもううんざりよ!」と責めます。
頑固なところはあるものの、娘はもちろん誰にも迷惑をかけることなく、夫の世話、育児を一身に引き受け、夫亡き後は一人でつつましく生活をしてきたイーディ。
娘から母親への複雑な胸中の発露に母娘の溝は深まります。
そんな時、イーディはいきつけのフィッシュ&チップス店で“いつもの”を注文し食事をした後、「追加注文は遅い?」と聞きます。すると店員が
「何も遅すぎることはないさ-Never too late-」
と答えます。その言葉を聞き、イーディは覚醒します。
あの日の父親との約束を果たそうと決意し、父親の思い出の古びた登山グッズをカバンに詰めて夜行列車に飛び乗るのです。
青年ジョニーとの運命の出会い

列車から降りバスへの乗り継ぎに急ぐイーディは若い女性とぶつかり転びます。先を急ぐ若い女性の代わりにイーディを助け起こしたのは青年ジョニー(ケヴィン・ガスリー)。ジョニーはイーディを目的地まで車で送ると申し出ます。最初は断ったイーディですが、バスが4時間来ないと知りしょうがなくジョニーの車に乗り込みます。
そして目的地のホテルへ到着すると、今度はイーディの手違いで明日からしか宿泊できないことが発覚。親切なジョニーは他も一緒にあたってくれますが、結局どこも満室でホテルは見つかりません。するとジョニーは自分が友人と暮らす家に泊まればいい、とイーディを誘ってくれるのです。
…なんだかちょっと…わくわくする展開です。その後、様々な縁が重なりイーディはジョニーから登山の訓練を受けることになります。

ジョニーはイーディに親身になって訓練を施し、二人は様々な時間を過ごします。そして互いの弱さや秘密を打ち明け合い、いつの間にか二人の間に友情のような親子のような恋人のような親密な空気が流れます。
ある日、訓練を終えホテルにイーディを送り届けるとジョニーは
「人生は一度きり。飲み行こう」
と、誘います。嬉しくなったイーディは華やかなドレスを着て、口紅を差し、ジョニーを待ちます。そして迎えに来たジョニーにこれまでの感謝の気持ちを綴ったカードを贈るのです。
まるで恋人同士のようなドキドキする時間が流れます。
…しかし…その後ハプニングが起こり、イーディは「登山を諦める」とジョニーに告げます。
83歳の“はじめて”を可能にしたもの

一度は登山を諦めたイーディですが、ジョニーの活躍により再び登山を決意します。しかし、当初はジョニーと二人で登る予定だったのに、登山当日の朝、「独りで行く」とイーディはジョニーに告げます。
「助けてもらっては意味がない。独りで行く」

イーディは83歳になるまで、特別な運動をしてきたわけではありません。30年間、話すことも歩くこともできない夫の介護を続け、亡き後は一人でつつましく暮らしてきました。
しかしある日、特別親しくもない人の“たった一言”をきっかけに登山を決意し、行動を起こします。
するとそれを待ち受けていたかのように、まるで父親のようにイーディを見守ってくれる青年ジョニーが現れ、文字通り二人三脚で登山までの準備をし、挫折しそうになったら励ましてくれ、イーディは再度登頂を決意します。
イーディはどこにでもいるごくごく一般的な女性です。その行動は突飛なようで堅実で、ジョニーとの関係に浮き足立ったり落ち込んだりする姿にもとても共感できる、どこを切り取っても“特別”なところが見当たらない人です。途中、着々と準備を進め調子が良かったイーディが自分の“年齢”に気づかされ、周りの目が気になりだし夢を諦めそうになるシーンがあります。そんなところもとても共感できるのです。
ですが、そんな“特別なところがない”83歳の女性が最後に下した決断と成し遂げたことは、とても偉大で勇気あふれるもので、とても“ふつう”のおばあちゃんにできることではありませんでした。
それが実現できたのはジョニーの力もとても大きいのですが、最終的にはイーディ自身の“心の在り方”が周囲の目や常識に囚われることなく、“自分に由(よ)った”ものだったからではないかと思うのです。
この物語はフィクションです。ですが83歳の女性がスイルベン山に登ったのは事実です。
もしも今、色んなものに自ら囚われ生きづらさを感じているのなら、そこから抜け出したいと願っているのなら、『イーディ、83歳 はじめての山登り』は何かのきっかけになるかもしれません
イーディがなじみのフィッシュ&チップス屋の店員に「何も遅すぎることはないさ-Never too late-」と言われ覚醒したように。
『イーディ、83歳 はじめての山登り』は1月24日(金)シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショーです。

『イーディ、83歳 はじめての山登り』
監督・脚本:サイモン・ハンター
出演:シーラ・ハンコック、ケヴィン・ガスリー、ポール・ブラニガン、エイミー・マンソン、ウェンディ・モーガン
2017年/イギリス/英語/102分/シネスコサイズ/原題:Edie後援:(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会、ブリティッシュ・カウンシル
配給:アットエンタテインメント © 2017 Cape Wrath Films Ltd.
1/24(金)、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

映画『イーディ、83歳 はじめての山登り』公式サイト 2020年1月24日[金]より公開
http://www.at-e.co.jp/film/edie/住み慣れたロンドンから、ひとり夜行列車に乗って、スコットランドの山へ。家族のためだけに生きてきたイギリス老婦人が、人生の終わりを目前に、はじめて自分のための一歩を踏み出した感動作。
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