“性”のことで傷つく人を少なくしたい 産婦人科医 遠見才希子さんインタビュー<第一回>【#FocusOn】 | 大人のワタシを楽しむメディア
“性”のことで傷つく人を少なくしたい 産婦人科医 遠見才希子さんインタビュー<第一回>【#FocusOn】

“性”のことで傷つく人を少なくしたい 産婦人科医 遠見才希子さんインタビュー<第一回>【#FocusOn】

2005年、医学生の頃から中高生や大人に性教育を行い、現在は精力的にアフターピルや日本の中絶方法について情報発信を行い続ける産婦人科医 遠見才希子さん。その活力の源はどこにあるのか? 産婦人科医になろうと思ったきっかけや現在の取り組んでいる活動などについてお話を伺いました。


産婦人科医の遠見才希子さん。医学生の頃から中高生などに性教育を行っていた遠見さんは、その授業が評判となり性教育女子大生としてメディアにも取り上げられ注目される存在になりました。現在は産婦人科医として積極的に “性と生殖に関する健康と権利(Sexual Reproductive Health & Rights ; SRHR)”*)について発信する活動をしている遠見さんにお話を伺った第一回です。

*)性や子どもを生むことに関わること全てにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態であり、自分の意思が尊重され、自分の体のことを自分で決められること

女子大生が紙芝居を自ら作り中高生に性教育

――今回は遠見先生ご自身のことや力を入れている活動などについてお話をお伺いできればと思っております。よろしくお願いいたします。

遠見さん:よろしくお願いします。

――まず、遠見先生がなぜ産婦人科になろうと思ったのか、教えていただけますか?

遠見さん:10代の頃、皮膚科や婦人科に通院していたのですが、自分の困っていることを打ち明けづらく先生の説明もよくわからなかったんです。若い女性でも通いやすくて、患者さんの気持ちに寄り添った医師になりたいと思い医学部を目指しました。でも、入学した頃はまだ何科に進むかは全然決めていなかったんです。

たまたまエイズの啓発活動を行う医療系学生団体のイベントに参加して、本当はセックスをする前に知らなきゃいけないことや考えなきゃいけないことがたくさんあるのに、性教育の機会がほとんどなかったことに気づかされたんです。思春期の寂しさなど様々な背景から自分の居場所を求めた先にセックスがあったり、性のことで傷ついてしまう子もいる。

正しい知識を説明されるだけでは心に響かないから自分や友人の経験談もまじえて本音を伝えたいと思いました。伝える場所を探していたところ、“NPOカタリバ”という、高校生に対して大学生たちが経験を語ることでキャリア教育を行う団体に出会いました。大学生たちは自分の経験を伝えるツールとして紙芝居をつくるんです。私も、恋愛や性に関する失敗談や、もっと気軽に楽しくまじめに性を考える場をつくりたいという思いを紙芝居に込めました。すると私のところに生徒たちがすごく集まってくれて、それで注目されて、全国紙で紹介されたり、個人的にも講演に呼ばれるようになったんです。

――なるほど…しかし、女子大生が紙芝居を自ら作って性教育をするってかなりの度胸と行動力だと思うんですが、なにか原動力になるものがあったんでしょうか?

遠見さん:それはやっぱり中高生の“生の声”ですね。「えんみさん、もっと早く会いたかったです」と感想を書いてくれた女子高生がいたんです。それを見たときに胸がしめつけられました。この子に何があったかはわからないけれど、もしもっと早く届けられていたらなにか違っていたのかな…って。

自分に何ができるか、何かを変えられるかなんてわからないけど、「とにかく来た依頼は断らずにやっていこう!」そう決意しました。養護教諭の先生方の口コミのおかげもあって、北海道から九州まで全国の学校をめぐりました。医学部の講義も忙しくて、性教育の活動ができる日は限られていたので、1日3校とか4校とか講演を詰め込んで、試験前は徹夜で勉強するというだいぶバタバタした大学生活でした。

――14年前の遠見さんが大学一年生の頃って今までよりももっと性についてタブー視されていたと思うんです。そんななかで活動をするってものすごく勇気がいっただろうと思うのですが、実際はどうだったんでしょうか?

遠見さん:そうですね…初めて新聞に載った日のことは今でも覚えています。なぜならインターネット上での中傷がひどかったからです。口に出したくもないような卑猥な言葉を浴びせられたり、個人情報が掲示板に書かれてしまって男性器のわいせつ画像を送られたり、など色々ありました。でもその経験のおかげで、うわべだけで判断するような他人からの評価よりも、自分が直接見たことや感じたこと、目の前で話を聴いてくれる人たちを改めて大切にしたいと思えました。

――素敵です!

現場で当事者に向き合ってブラッシュアップし続けてきた14年間

――講演を聞いて遠見先生と個別に話をしたいという生徒さんたちはたくさんいるでしょうね。

遠見さん:講演のあとは保健室に残らせてもらって生徒たちの個別相談を受けています。あと、感想文にも切実なメッセージを書いてくれる子がたくさんいます。それこそ「あんたなんか産まなければよかった」と親から言われた子や、家庭内で性的虐待を受けていた子、性暴力の加害者側の子、中絶したことがある子、セクシュアルマイノリティの子など様々です。私は、体育館で数百人規模に行う講演が多いので、集団を惹きつけるようなゲームや明るく笑える要素も含めて話を進めつつも、この中には色々な経験をしている子がいるという前提で言葉使いなどに気をつけて、なるべく中立的に話をするようにしています。

だけど、それでも、話を聞いてしんどくなる子はいるかもしれない。なので、講演の冒頭では必ず「無理せず自分のペースで参加してください。人がいっぱい集まっていて気分が悪くなりそうだったり、トイレに行きたくなったりしたら、自由に出入りしてね」って言います。そして最後には必ず「聴いてくれてありがとう。あとから疲れが出ることもあるから、誰かに話したり、自分をいたわってね」って言います。

――しんどい話をしたり、聞いたりした自分自身を慈しんで大切にしてあげてね…というメッセージですね。

遠見さん:性教育って伝える側が注意しないと、自分の価値観を押し付けてしまったり、脅し教育になってしまうこともあると思うんです。知識や情報としての正確さは大切ですが、これが絶対に正しい伝え方だといえるものはないと思います。いろんな人がいるし、いろんな価値観があるし、人それぞれなので、私が行っている性教育も数あるアプローチの一つにすぎません。私もまだまだ答えが出ていなくて、中高生の声を聴くたびに伝え方を反省したり、変えてみたりの繰り返しで、あっという間に15年目という感じです。

――現場で一人一人に向き合って話をして、聞いて、ということをしていると、遠見さん自身も色々しんどい話を聞いて大変な思いをすることがあると思うんですが、そういう時はどうしているんでしょうか?

遠見さん:そうですね…性の話は、聴くほうも話すほうも疲れてしまうことがあります。自分自身が健康でないとやっぱり続けられないですよね。私の場合は、疲れたりモヤモヤしたときはとにかく人に話すようにしています。性教育仲間や家族、友人に話せる範囲で共有して…あとは疲れたときは「疲れた~!」って声に出しています(笑)無理のない範囲で自分ができることを続けられるペースでやるように心がけています。

産婦人科の激務のかたわら、勤務先の病院がある地域の学校などで講演を続けさせてもらいました。でもいつか、腰を据えて性教育に関する問題に向き合って勉強したいって思っていたんです。それで大学院に入学しました。

女性の“性”の自立を考えた時、WOMe世代が肝になる!?

遠見さん: 産婦人科医の仕事は、扱っているものがとても重くてつらいこともたくさんありましたが、忙しくも充実していてすごく楽しくて…だから、分娩も手術も緊急対応も行う臨床の第一線から距離をおくことについては非常に悩みましたが、性教育をライフワークとして続けていくにあたって、しっかり時間をつくって向き合いたいと思い、社会医学系の大学院に入りました

――向き合う、というのは“性教育”に向き合うということですか?

遠見さん: これまで生徒から性暴力被害を打ち明けられても何もできない自分がもどかしかったんです。“性暴力”について知りたい、当事者の方の声を聴きたい、被害や加害を防ぐためにはどのような性教育のアプローチが必要なのか考えたいと常々思っていました。あと、もう一つは“中絶”ですね。日本の中絶や避妊の方法には問題がすごくあるなと産婦人科医の立場として感じていて、変えていかなければならない、と思いました。

――両方とも今でもあまり表立って言えないことですね。日本人はとにかく性に関して語りたがらない。仲の良い同性同士でさえもなかなか話さないですよね。そもそも親も子どもに性教育をしたがりません。日本人の大人が性について話せない、話したがらない、アレルギーのようになってしまっているのはなぜだと思いますか?

遠見さん: 日本では「性に関することは隠さなければいけないもの」というタブー視がまだあると思います。生理の話でさえ男女別で行われたり、大人たちが性教育を受けた経験がないため子どもへの伝え方や性教育の必要性がわからないということも影響しているかもしれません。そして、性の問題を個人の自己責任として片付けようとする風潮も問題だと感じています。

あとは…ものすごく根深い問題ですけど、女性の性の健康に関する医療の遅れがあると思います。日本で経口避妊薬(低用量ピル)が認可されたのは1999年。研究班の発足から承認まで40年以上を要し、世界から大きな遅れをとりました。その背景には「女性の性が乱れる」というような意見があったといわれています。低用量ピルはWOMe世代(40代)の人たちが20代の頃に出てきたものなので、ちょっと飛躍しますが、“女性の性の自立”を考えた時にまさにWOMe世代が肝になるのではと思ってるんです。

――なるほど…ただWOMe世代の親たちは中・高用量ピルの世代で、ピルに関していい印象を持っていません。親からそのイメージをそのまま植え付けられた結果、怖くてピルを使えない、という人も多いと思います。

遠見さん: そうですね。親世代には自分のために低用量ピルを使うという選択肢がありませんでした生理や妊娠を薬でコントロールすること自体に抵抗感があったり、「生理痛はがまんしなければならない」「女性が避妊を口にすることは恥ずかしい」という意識を持っている人も多いかもしれません。

――遠見先生が使命感をもって性教育や性暴力、中絶問題に取り組む理由、そして日本人女性を取り巻く根深い問題…私たちが知らなければいけないことは、ものすごく多そうです。第二回に続きます。

文・編集/和氣 恵子、撮影/鈴木 志江菜

遠見才希子(えんみ さきこ)さんプロフィール

筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻社会精神保健学分野/産婦人科専門医

1984年生まれ。神奈川県出身。2011年聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業。大学時代より全国700カ所以上の中学校や高校で性教育の講演活動を行う。正しい知識を説明するだけでなく自分や友人の経験談をまじえて語るスタイルが“心に響く”とテレビ、全国紙でも話題に。現在、大学院生として性暴力や人工妊娠中絶に関する調査研究を行う。

DVD教材『自分と相手を大切にするって?えんみちゃんからのメッセージ』(日本家族計画協会)、単行本『ひとりじゃない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)発売中。

ひとりじゃない 自分の心とからだを大切にするって?

¥ 1320

300校以上の中学校・高校で講演。女子医大生“えんみちゃん”が本音で語る性の授業。



本サイトに記載する情報には充分に注意を払っておりますが、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、完全性、正確性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動や、判断・決定は、ご自身の責任において行っていただきますようお願い致します。

この記事のライター

WOMe編集部 総合アカウントです。皆様へのお知らせやキャンペーン、ライター募集などの情報を発信していきます。

関連する投稿


【#FocusOn】『子どものいない人生を考える会』主宰・朝生容子さんインタビュー<第一回>

【#FocusOn】『子どものいない人生を考える会』主宰・朝生容子さんインタビュー<第一回>

WOMeでアラフォーのキャリアについて連載いただいたキャリアカウンセラー朝生容子さん。2014年にある出来事がきっかけで『子供のいない人生を考える会』という会を立ち上げFacebookなどで活動を続けていらっしゃいます。いったいなぜ、この会を主宰しようと思ったのか。朝生さんご自身の体験も含めお話を伺いました。その第一回目です。


【#FocusOn】「更年期の苦しみから女性を解放したい!」NPO法人ちぇぶら代表理事 永田京子さんインタビュー<前半>

【#FocusOn】「更年期の苦しみから女性を解放したい!」NPO法人ちぇぶら代表理事 永田京子さんインタビュー<前半>

WOMeで【更年期は人生が輝くチャンス】を連載中のNPO法人ちぇぶら代表理事の永田京子さん。今回は永田さんに「なぜ更年期をサポートするNPOを立ち上げたのか」、「世界と日本の更年期に関する常識の違い」、などについてお話を伺いしました。インタビュー前半です。


【#FocusOn】セックスをポジティブなものにしたい 「#なんでないの」福田和子さんインタビュー<最終回>

【#FocusOn】セックスをポジティブなものにしたい 「#なんでないの」福田和子さんインタビュー<最終回>

スウェーデンに留学して帰国後「#なんでないの」を立ち上げた福田和子さん。日本では子どものころからネガティブなセックスのイメージを植えつけられているのではないか、と問題提起をいただきました。セックスがポジティブなイメージになれば、もっと楽しめ、性暴力の排除や避妊への主体的な行動につながるのでは、と、熱い想いをお伺いしました。最終回です。


【#FocusOn】性について普通に話せる社会にしたい「#なんでないの」福田和子さん インタビュー<第一回>

【#FocusOn】性について普通に話せる社会にしたい「#なんでないの」福田和子さん インタビュー<第一回>

スウェーデンに留学して帰国後「#なんでないの」プロジェクトを立ち上げた福田和子さん。性への姿勢、お互いの関係の築き方、若者の声が反映される仕組みや若者への配慮など、日本との違いを実感し、「日本人ももっと知らなければ!」と強く感じて活動をはじめました。セックスをポジティブに捉え、性について普通に話せる社会にしたい、と熱く語る福田さん。第一回目は性先進国スウェーデンの性事情についてお話を伺いました。


『クリトリス革命』翻訳者・永田千奈さんインタビュー【#FocusOn】

『クリトリス革命』翻訳者・永田千奈さんインタビュー【#FocusOn】

フランスのセクソロジストとセックスジャーナリストがふたりで書いた本「クリトリス革命」。今回、この本を翻訳された永田千奈さんにインタビューしました。このある意味、刺激的でセンセーショナルなタイトルの本を翻訳された経緯やこの本の魅力について語っていただきました。


オススメ情報

dummy

人生100年時代 40代からの転職術

業界最多の非公開求人からご希望に沿った求人をご紹介、あなたの転職を成功に導きます。


リクルートエージェント


dummy

母であり妻であり、そして“働く女性”であり。働き続ける女性を応援!

業界最多の非公開求人からご希望に沿った求人をご紹介、あなたの転職を成功に導きます。


リクナビNEXT


最新の投稿


こっそりスマホでエア恋愛♡ ホルモンを分泌して安眠&美肌に

こっそりスマホでエア恋愛♡ ホルモンを分泌して安眠&美肌に

睡眠やお肌の調子に影響を与えるといわれている恋愛ホルモン。現実で恋愛をしていないなら、スマホのアプリでエア恋愛をしませんか? ひとことで、イケメンが出てくるゲームと言っても、恋愛ストーリー系、パズル系、タッチ系、育成系などジャンルは実にさまざま。ゲーム性が高いものから、刺激強めのものまで、オススメアプリを紹介します。


【#FocusOn】『子どものいない人生を考える会』主宰・朝生容子さんインタビュー<第一回>

【#FocusOn】『子どものいない人生を考える会』主宰・朝生容子さんインタビュー<第一回>

WOMeでアラフォーのキャリアについて連載いただいたキャリアカウンセラー朝生容子さん。2014年にある出来事がきっかけで『子供のいない人生を考える会』という会を立ち上げFacebookなどで活動を続けていらっしゃいます。いったいなぜ、この会を主宰しようと思ったのか。朝生さんご自身の体験も含めお話を伺いました。その第一回目です。


心が迷子のあなたへ 映画「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」

心が迷子のあなたへ 映画「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」

平日は仕事に、休日は家事や育児に費やす日々。忙しいのには慣れているつもりでも日々をむなしく感じてるときはありませんか?自分のしたいことや、やらねばいけないことの間で心が迷子になっているあなたにおすすめなのが公開中のドキュメンタリー映画「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」。生きるヒントがきっと見つかるはずです。


甲斐性なしの夫とスムーズに離婚する方法【離婚を考えた時知っておくべき知識 #7】

甲斐性なしの夫とスムーズに離婚する方法【離婚を考えた時知っておくべき知識 #7】

巷で圧倒的に多いのは、夫の方が年収が高く、資産もある。離婚時には、そのような夫からいかに多くの養育費と財産分与を勝ち取るか! が重要ポイントとなるケースです。しかし、割合は少ないですが、妻の方が夫より稼いでいるケースもありますね。周りに参考例が少ないため、いろいろと情報収集に困る方も多いと思います。今回は、そのような妻


時短料理のための下ごしらえのコツが知りたい

時短料理のための下ごしらえのコツが知りたい

人は、食べなければ生きていけません。あなたの身体はあなたが食べたものからつくられている。だからこそ日々の食事で、自分の健康状態やライフスタイルに合わせた食材や調理法を選ぶことが大切。同じ食材といえど、目的や用途によって最適な下ごしらえは変わります。今回は、とにかく時間がない!という人への下ごしらえのコツをご紹介します。


友だち追加



人気記事ランキング


>>総合人気ランキング

画像 apple google