自分の体のことを決めるのは、あなた自身 産婦人科医 遠見才希子さんインタビュー<第二回>【#FocusOn】 | 大人のワタシを楽しむメディア
自分の体のことを決めるのは、あなた自身 産婦人科医 遠見才希子さんインタビュー<第二回>【#FocusOn】

自分の体のことを決めるのは、あなた自身 産婦人科医 遠見才希子さんインタビュー<第二回>【#FocusOn】

大学生の頃から性教育に取り組み、注目を集めてきた産婦人科医 遠見才希子さん。現在は人工妊娠中絶や性暴力などの問題について勉強するために大学院に通われています。遠見さんが今の日本で問題視していること、変えたいと思っていることなどについてお話を伺いました。


前回の記事はこちらから

産婦人科医の遠見才希子さん。大学時代から中高生に向けて性教育を行うなど、“性”に関する問題に真正面から取り組み続ける遠見さんにご自身の活動のことなどお話を伺いました。インタビュー第二回目です。

「自分の体は自分のもの」ということを教わってこなかった日本人

――日本で低用量ピルが認可されたのは1999年。研究班が発足してから認可まで40年以上を要したとのことですが、なぜそんなにも遅れてしまったのか、素朴な疑問が残るんですが…。

遠見さん: 様々な問題や歴史があったそうです…「低用量ピルが認可されたら女性の性が乱れる」「エイズが増える」などの意見があったともいわれています。一般の女性には、そのような選択肢があること自体が隠されてきたのかもしれません。

――男女問わず女性の性自立ということに関して日本人はアレルギーのようなものがあるのかなあと思ってしまいます。なんで日本人はそんなにも自分の性や体に関しての意識が欠如してしまっているんでしょう?

遠見さん: 性や体のことを自己決定できることは権利だということを教えてもらってこなかった影響はあるかもしれません。まじめに性のことを考える機会自体が少なく、性教育があっても避妊や性感染症予防に主眼がおかれ、人権を尊重することやジェンダー平等という視点が抜け落ちていることがあります。つまり“性と生殖に関する健康と権利/セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)”自分の体のことは自分で決めるのが当たり前なんだという意識を持ちにくいということです。

――ということは男女ともにお互い様の部分があり、問題があるということなんでしょうか?

遠見さん: 避妊に関していうと、本来は妊娠が体に起こる女性が主体となって多数の避妊法の選択肢から選べるものであってほしいと思うのですが、日本では男性用コンドームが主流であるため「女性が男性にしてもらうもの」という意識があるかもしれません。

低用量ピルや子宮内避妊リングといった効果の高い避妊法は様々な背景から日本ではあまり普及していません。そして海外にあるような避妊インプラントや避妊注射、ミニピルなどの多様な避妊の選択肢はまだ認可されていないなどの問題があります。ただ、現状がこうである以上、まずは “自己責任論をやめよう”という必要性を感じています

現場の当事者の声を聞くことから始まる

遠見さん: 性の問題は個人の自己責任にするのではなく、社会全体で考えなければいけないことです。なのに、例えば思いがけない妊娠をした人や、性暴力被害にあった人に対して「あなたが悪い、自業自得だ」と断罪する人がいたりします。

――ありますね…なぜそういう発言が出てくるのか本当に理解に苦しみます。

遠見さん:ある中学生が「二人とも初めてで知識がなくて、最初から中出し(腟内射精)で、妊娠して中絶した」と打ち明けてくれたことがあります。彼らは、コンドームは見たことがないけれど、アダルトサイトは見ていて中出しという行為があることを知っていた。これをこの中学生たちやその保護者たちの“自己責任”として片付けようとする風潮はないでしょうか

中学校の学習指導要領には「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」といういわゆる“歯止め規定”が存在します。実際、中学校の教科書に「コンドームは性感染症予防のために使用する」という記載はあるけれど、性交や避妊という言葉は載っていません学校や家庭、社会における性教育の機会は十分でない一方、インターネットには星の数ほどのアダルトコンテンツが存在しています。

この環境をつくり出しているのは、大人たちです。性の問題をタブー視し、適切な情報を伝えてこなかった社会の問題ではないでしょうか。

――そうですよね。そんなことを言う前に社会全体の問題であるという認識を持ってほしいです。まずは大人たちに。

遠見さん:あと親は、子どもが性に関する問題を起こしたとき咄嗟に「なんで言わなかったのよ!」と怒ってしまうかもしれません。実際、性感染症の治療をしたいけど保険証を使って親に知られてしまうことを恐れて自費で受診する子や、中絶することを親にだけは言えないという子がいます。子どもたちが親になんで言わないかというと「迷惑かけたくない」「悲しい思いさせたくない」「自分のことで親を煩わせたくない」って言うのが理由だったりするんです。

――それは…親にとってすごく悲しいことですね。

遠見さん: 小学生の頃に性暴力被害を受けたことのある私の友人は、長年親に話すことができませんでした。被害に遭って家に帰った日、親は忙しそうにしていて話すタイミングがなかったそうです。その当時もし親が、「おかえり。今日はどんな一日だった?」って聞いてくれていたら、そのことを言えていたかもしれないって話してくれたんです。親が子どもに“何かあったら話してね”と言うだけでなく、日頃からオープンなコミュニケーションをとり、何かあったときに子どもが打ち明けやすい関係性を築いておくことの大切さを教えてもらいました。

このように“生の声”を聞いて本当にたくさんのことを学ばせてもらっています性暴力も中絶の問題についても、当事者の声を聞くことがものすごく大切。そこからすべて始まるんじゃないかと思っています。

――当事者の人たちが声を上げるのって本当に大変で難しいことですよね。性暴力に遭っても「あなたにも非があるんでしょう」ってあらゆるところから誹謗中傷を受けるような世の中だから。そもそもなぜ誹謗中傷する人たちはそういった行動に出るのか、そして、なぜ、誹謗中傷をしてはいけないのか、ということを知らないといけないですよね。

遠見さん:そうですね。自衛について教えることと、実際、被害にあった人たちにかける声は別なんですよね。自衛の教育を否定するわけではないですが、被害にあった人に「なんでその時間にそんな場所にいたの」っていうのはまったく別です

――本当に…なぜ、そういう意識になってしまうのか…

遠見さん:当事者意識…誰でも当事者になりうる、という意識が持てていないのかもしれないですね。私が大学院に入って良かったなと思ったことの一つに、教授から“脆弱性を共有する”という言葉を教えられたことがあります。これはすべての人には“脆弱性(弱さ)”があって、誰しもが当事者になりうる、誰もが加害者にも被害者にもなりうるかもしれないということです。脆弱性を認識して、他人事にしないことが大切だと思います。

――そういう認識を持ったとして、私たちは次にどういうアクションが起こせるんでしょうか? 例えば、遠見先生にこういうお話を聞いて何かを感じたとして、自分や大切な周りの人たちを守るために大切にするためにどういうことができるのかなあって。

効果的な性教育がなされれば、初めてのセックスに慎重になり、初交年齢は上がる

遠見さん: まずは身近な家族や友人に、自分の言葉で伝えてみてください。性の話ってあまりする機会がなかった人が多いと思うので、言葉にすることでアクションに繋がる何かが見えてくるかもしれません。

性教育の方法にはこれが最適解と断言できるものはなく、様々なアプローチがあっていいと思います。ただ、性に関してなんでもオープンにすべきだとか、積極的になるべきだというわけではありません。

いつ誰とどんなセックスをするかは相手を尊重した上で本人が決めることです。

そして、100%安全と言い切れるセックスは基本的にはありません。いかに、より安全なセックス(Safer Sex)ができるかが大切です。“性的同意”についても、ただ言葉でYES、NOが確認できればいいというわけではなく、セックスをしたら起こり得ることを知っていること、セックスをしないという選択肢も平等に尊重されること、意思決定が自発的にされることなどが必要です。

――本当にその通りだと思います。

遠見さん: ユネスコが刊行する「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」という性教育の指針には、効果的な性教育プログラムは「初めての性的関係に慎重になること、あるいは、遅らせること」を促進すると書かれています。つまり、初交年齢を上げることは、性教育の効果判定の一つともいえます。「何歳ならセックスしていい」という決まりはないところが性教育の難しいところですが、価値観を押し付けるのではなく、自己決定できるような情報提供が大切だと思います。

――そうですね…いろんな価値観があるということが基本となって、自分たちに一番しっくりくるようなものに出会えるか出会えないか、ということはすごく大きいですね。しかし日本のがまだ世界基準に達していないというのが大きな問題ではありますね。

遠見さん:性教育というと避妊や性感染症予防に関することというイメージがあるかもしれませんが、世界的には“人権の尊重”をベースに、性の多様性やジェンダー平等への理解を深め、避妊、性感染症、性暴力、情報リテラシーなど様々な問題を、5歳頃から18歳頃まで体系的に繰り返し学ぶ“包括的性教育”が推奨されています。しかし日本では、性教育だけでなく医療においても、世界のスタンダードとは異なる状況があります…。

――産婦人科医の立場として遠見先生から聞く話は、驚くことばかり。私たちは大人としてある程度知らなければいけないことは知っているつもりでいましたが、どうやらそうではないようです。世界の性を取り巻く環境は日本とはずいぶん違うのが現実。次回、最終回はWOMe世代だからこそ認識したい性の話です。


文・編集/和氣 恵子、撮影/鈴木 志江菜

遠見才希子(えんみ さきこ)さんプロフィール

筑波大学大学院ヒューマン・ケア科学専攻社会精神保健学分野/産婦人科専門医

1984年生まれ。神奈川県出身。2011年聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業。大学時代より全国700カ所以上の中学校や高校で性教育の講演活動を行う。正しい知識を説明するだけでなく自分や友人の経験談をまじえて語るスタイルが“心に響く”とテレビ、全国紙でも話題に。現在、大学院生として性暴力や人工妊娠中絶に関する調査研究を行う。

DVD教材『自分と相手を大切にするって?えんみちゃんからのメッセージ』(日本家族計画協会)、単行本『ひとりじゃない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)発売中。

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